36 不調のなかでも
by 聖 ★章弘(akimitsu)
鬼の背中へと、ボウの体温が伝わってくる。
明らかに高い体温。ぐったりとしたボウを心配そうに、理解できない小声で理解できない言葉を伝え、励ます鬼。
ボウは再び眠りについた。
その寝息は熱く苦しそうに口で呼吸している。弟子は後ろから腕を伸ばしてボウのオデコへと手のひらを当てる。
「あつい・・・。」
ボウの額は熱く、べっとりと汗ばんでいる。
洞窟で休んで、しばらくすると唐一朗があらわれた。
事情を説明すると、
「よい小屋がある・・あと半日は歩みますが」
ことは決まり、皆が立ち上がり仕度をしていると、
「ボウ、ボウ」
鬼が両腕にボウをかかえ、旅僧にことを訴えてくる。
鬼の腕に抱かれたボウは、ぐったりと力なく抱かれ、腕がダラリとぶら下がっている。
「寝ているのか」
旅僧は一言つぶやくと、鬼に抱かれているボウに近づき額に手をあてる。
「あつい・・・熱が・・。」
額に汗かき、口で苦しそうに息をしている。
「顔色が少し、悪かったようですから」
弟子がボウの顔を覗き込み、
「旅の疲れも緊張も高いでしょう・・・・。唐一朗殿」
不意に振り向き、
「その小屋まで急ぎましょう。暗くなると叉、熱のほうも上がるかもしれない」
今までのように、師の言いなりに動くのではない。
この2日ほどで、今必要な判断を口に出すまでに逞しくなってきている。
弟子の少しの成長を、旅僧も感心してみていると、
「よろしいでしょうか」
旅僧への確認をする礼儀も忘れていない。
旅僧が『うむ』と、頷くと、
「私がおぶいましょう」
鬼から自らの背中へと受け取る動きをするが、鬼は首を横へとふり、ボウを旅僧に渡して自ら背中を見せてしゃがみこむ。
旅僧はボウを鬼の背中へ乗せると、ボウの脇から腰紐を通して、ボウが落ちないように軽く結わえる。
「水が欲しいな」
意識があるのか無いのか、鬼の体に顔を伏せたままボウがつぶやく。
ボウの口へと弟子が水をはこび与える。ボウは軽くすすり喉を潤して、鬼の背中へ顔をふたたびうずめる。
「水が無い」
弟子が竹筒を振って水が入っていないのを確かめる。
「儂も空っぽだ」
旅僧がつぶやき、慎太郎と唐一朗へと視線をむける。
慎太郎は旅僧と目が会うと唐一朗へと視線を投げて『どうだ』と声をかける。
「しばらくゆけばある」
唐一朗は顎をさすりながら、
「みずならば・・・そこいらで湧いている清水ぐらい・・・あると思いますが・・。」
唐一朗はしばらく考え込み、
「しばらく歩きにくくはなりますが、沢のほうを通りますか・・・水の心配はなくなります。まだ、梅雨の少なく水も少ない・・・湧き水もすくないかも・・・沢を歩きましょう」
時間がかかっても水が大事。
歩きにくくても沢伝いに歩き小屋へと向かう事に決める。これで水はしばらく心配なくなる。
道中は、しばらく静かなものだった。
皆が疲れている事もあるが、ボウが静かな事が一番の原因なのは、たしかだった。
沢にたどり着き、ボウの口を湿らして、ゴロゴロとした足場の沢をゆっくり歩く。陽も傾き、辺りは涼しく、ボウの身体は徐々に冷やされ、今しばらくの間に寒気に変わることだろう。
だれも心配は口にださず、静かに歩き続ける。
「おお、これはっ」
静けさの中に、押し殺した驚きの声。
先頭を歩いていた唐一朗と慎太郎が、何かに驚いている。すばやく身を屈めて岩の陰へと身を隠す。
それに驚き旅僧たちも、すばやく唐一朗たちの後ろに身を屈める。
「どうしました」
旅僧が小声で聞くその後ろに鬼が身を屈めて近づいてくる。
「あれを・・・」
慎太郎が身体を横へとずらして旅僧を招き入れる。
「どれどれ・・・。」
旅僧は身体をずらしてゆく、
近づく旅僧に
「静かに」
唐一朗が唇に人差し指をあて、その指を岩の向こうを見ろと、動きで表現する。
「う・・し、牛か、・・何かいます」
「牛・・・。」
旅僧が不思議そうに頭をかしげ、岩の上へと頭をずらしてゆく。
ボウも、不審な動きに目を覚まし、鬼の背中から、『・・なんだ・・』すっきりしない頭で異様な空気を読み、意識をはっきりさせる。
旅僧を後ろから観察するボウの目に、岩から頭を出した旅僧が、
『 ビクッ 』
何かに反応して驚いている。
驚いた背中は、静かに何かを見続けていた。
無くなった体力で、静まっていた好奇心は、病を押し退け頭を出してくる。
「鬼さん鬼さん」
ボウは鬼の肩をたたき、指を使い、立ち上がることを促す。
鬼は旅僧の横でゆっくりと立ち上がり始める。そして、旅僧の左横に頭を出す。
旅僧と鬼の並んだ頭の間に、鬼の背中に結わえられたボウが、もがいて頭を出してくる。
「・・なに・・」
得体の知れないものが視野に入り、微かに驚きの声をだす。
「ふせろ」
旅僧がボウの頭をおさえこみ、すばやく身を屈める。
身を屈めた鬼とボウは、しばらく静かに固まっていたが、ボウは我慢できずに旅僧へと話しかける。
「旅僧さんあれは何ですか、鹿ですか」
「シッ」
旅僧がボウの口を押さえて『しずかにしろ』と注意する。
「何ですか・・どうしました」
唯一、それ を見ていない弟子が興味のままにゆっくりと身を起こしそれを見た。
「・・・」見つめるだけ見つめて、
弟子はゆっくりと身を屈める。
「あれは何でしょうか・・。」

。
by 聖 ★章弘(akimitsu)
鬼の背中へと、ボウの体温が伝わってくる。
明らかに高い体温。ぐったりとしたボウを心配そうに、理解できない小声で理解できない言葉を伝え、励ます鬼。
ボウは再び眠りについた。
その寝息は熱く苦しそうに口で呼吸している。弟子は後ろから腕を伸ばしてボウのオデコへと手のひらを当てる。
「あつい・・・。」
ボウの額は熱く、べっとりと汗ばんでいる。
洞窟で休んで、しばらくすると唐一朗があらわれた。
事情を説明すると、
「よい小屋がある・・あと半日は歩みますが」
ことは決まり、皆が立ち上がり仕度をしていると、
「ボウ、ボウ」
鬼が両腕にボウをかかえ、旅僧にことを訴えてくる。
鬼の腕に抱かれたボウは、ぐったりと力なく抱かれ、腕がダラリとぶら下がっている。
「寝ているのか」
旅僧は一言つぶやくと、鬼に抱かれているボウに近づき額に手をあてる。
「あつい・・・熱が・・。」
額に汗かき、口で苦しそうに息をしている。
「顔色が少し、悪かったようですから」
弟子がボウの顔を覗き込み、
「旅の疲れも緊張も高いでしょう・・・・。唐一朗殿」
不意に振り向き、
「その小屋まで急ぎましょう。暗くなると叉、熱のほうも上がるかもしれない」
今までのように、師の言いなりに動くのではない。
この2日ほどで、今必要な判断を口に出すまでに逞しくなってきている。
弟子の少しの成長を、旅僧も感心してみていると、
「よろしいでしょうか」
旅僧への確認をする礼儀も忘れていない。
旅僧が『うむ』と、頷くと、
「私がおぶいましょう」
鬼から自らの背中へと受け取る動きをするが、鬼は首を横へとふり、ボウを旅僧に渡して自ら背中を見せてしゃがみこむ。
旅僧はボウを鬼の背中へ乗せると、ボウの脇から腰紐を通して、ボウが落ちないように軽く結わえる。
「水が欲しいな」
意識があるのか無いのか、鬼の体に顔を伏せたままボウがつぶやく。
ボウの口へと弟子が水をはこび与える。ボウは軽くすすり喉を潤して、鬼の背中へ顔をふたたびうずめる。
「水が無い」
弟子が竹筒を振って水が入っていないのを確かめる。
「儂も空っぽだ」
旅僧がつぶやき、慎太郎と唐一朗へと視線をむける。
慎太郎は旅僧と目が会うと唐一朗へと視線を投げて『どうだ』と声をかける。
「しばらくゆけばある」
唐一朗は顎をさすりながら、
「みずならば・・・そこいらで湧いている清水ぐらい・・・あると思いますが・・。」
唐一朗はしばらく考え込み、
「しばらく歩きにくくはなりますが、沢のほうを通りますか・・・水の心配はなくなります。まだ、梅雨の少なく水も少ない・・・湧き水もすくないかも・・・沢を歩きましょう」
時間がかかっても水が大事。
歩きにくくても沢伝いに歩き小屋へと向かう事に決める。これで水はしばらく心配なくなる。
道中は、しばらく静かなものだった。
皆が疲れている事もあるが、ボウが静かな事が一番の原因なのは、たしかだった。
沢にたどり着き、ボウの口を湿らして、ゴロゴロとした足場の沢をゆっくり歩く。陽も傾き、辺りは涼しく、ボウの身体は徐々に冷やされ、今しばらくの間に寒気に変わることだろう。
だれも心配は口にださず、静かに歩き続ける。
「おお、これはっ」
静けさの中に、押し殺した驚きの声。
先頭を歩いていた唐一朗と慎太郎が、何かに驚いている。すばやく身を屈めて岩の陰へと身を隠す。
それに驚き旅僧たちも、すばやく唐一朗たちの後ろに身を屈める。
「どうしました」
旅僧が小声で聞くその後ろに鬼が身を屈めて近づいてくる。
「あれを・・・」
慎太郎が身体を横へとずらして旅僧を招き入れる。
「どれどれ・・・。」
旅僧は身体をずらしてゆく、
近づく旅僧に
「静かに」
唐一朗が唇に人差し指をあて、その指を岩の向こうを見ろと、動きで表現する。
「う・・し、牛か、・・何かいます」
「牛・・・。」
旅僧が不思議そうに頭をかしげ、岩の上へと頭をずらしてゆく。
ボウも、不審な動きに目を覚まし、鬼の背中から、『・・なんだ・・』すっきりしない頭で異様な空気を読み、意識をはっきりさせる。
旅僧を後ろから観察するボウの目に、岩から頭を出した旅僧が、
『 ビクッ 』
何かに反応して驚いている。
驚いた背中は、静かに何かを見続けていた。
無くなった体力で、静まっていた好奇心は、病を押し退け頭を出してくる。
「鬼さん鬼さん」
ボウは鬼の肩をたたき、指を使い、立ち上がることを促す。
鬼は旅僧の横でゆっくりと立ち上がり始める。そして、旅僧の左横に頭を出す。
旅僧と鬼の並んだ頭の間に、鬼の背中に結わえられたボウが、もがいて頭を出してくる。
「・・なに・・」
得体の知れないものが視野に入り、微かに驚きの声をだす。
「ふせろ」
旅僧がボウの頭をおさえこみ、すばやく身を屈める。
身を屈めた鬼とボウは、しばらく静かに固まっていたが、ボウは我慢できずに旅僧へと話しかける。
「旅僧さんあれは何ですか、鹿ですか」
「シッ」
旅僧がボウの口を押さえて『しずかにしろ』と注意する。
「何ですか・・どうしました」
唯一、それ を見ていない弟子が興味のままにゆっくりと身を起こしそれを見た。
「・・・」見つめるだけ見つめて、
弟子はゆっくりと身を屈める。
「あれは何でしょうか・・。」
。
Comment*0



