小説★月の道

28 勢いと若さは熱い

28  勢いと若さは熱い


by 聖 ★章弘(akimitsu)


 「これ、これ唐一朗」
 小声で話しかけ、
 「目的の人物かどうか解らぬぞ」
 疑問を投げてくる。
 慎太郎は落ち着きなく、左手で刀の鞘をつかみ、
 「確かめては・・・」と、先へ先へと行動を起こす唐一朗に意見する。が、唐一朗のほうは、

 「心配するな、いいからいいから。どの人物としても・・他に出来ることもない」
 「そうだが・・。」
 「とにかく歩こう」
 山へと脚をすすめてゆく。

 旅僧は慎太郎と唐一朗のコソコソ話を確認すると振り返る。先ほど自分が隠れていた辺りに目をやると、藪が左右にとゆっくり揺れている。旅僧はニヤリと笑うと、若者の背中に向かい歩いていった。

 

 辺りは薄暗く提灯がいる程だが、ふと空を見上げると月の力で数少ない星が、夜明けの力でなお少なくなっていた。
 「そろそろ夜明けか」
田島がころころと丸い身体を少し重たげに歩きつぶやく。
 
 「タケよ・・待ち伏せの場所まであといかほどのとき・・・。」
 疲れているだろうに表情は変えず宮田がたずねてくる。タケは振り返り後ろに続く杉(スギ)と源(ゲン)に目をむけた。
 スギはタケの視線に気づいてゲンへと言葉をなげる。
 「ゲンさんよぉ、あとどれぐらいがぁ」
 
 ゲンは少し顎をしゃくって、
 「ほれ、小屋ならあそこに見える。空があかるいがぁ・・みんな出ているがぁ。すれ違ってないから別の道とおったか、仕掛けた罠をみにいっとるがぁ」
 
 ゲンの言葉に「ちがうがぁ」と、タケが振り返る。
 「待ち伏せの場所のことだがぁ」
 今一度きいてみる。
 「まだがぁ・・・」

 「うーん」
 ゲンは軽く考え込み
 「いつもより歩みが遅いがぁ・・少しいそがねぇと・・」
 ゲンは宮田と田島をみて、
 「おさむらいがたぁ・・・がんばれるがぁか、・・やすむがぁ・・。」
 疲れを見て取り、気を使ってくる。

 「むりするがぁ・・後がつづかんがぁ・・なれない山道だがぁ」
 ゲンの言葉に続けてスギが、
 「なれない山歩きだがぁ少し疲れたろ、小屋で軽く眠るがいいがぁ、それから歩いても今日中にはつくがぁ」

 山男達の気遣いに、乱れた息遣いを隠しながら田島がこたえる。
 「そうだな・・少し休みましょうか宮田殿・・・」
 休むほうへと言葉をもってゆく、
 「・・そうだが、鬼どもが・・・・。」
 
 疲れのせいか、他の言葉も乱れている。
 「山に入ると・・・やっかい・・・。雨が降ってるでもなし・・こ・・このまま歩いて・・ま・・待ち伏せの場所で・・休みましょうか・・交替で・・。」

 宮田の言葉のうら、二人の言葉の影を読まずに、
 「じゃ、脚をはやめるがぁー」とゲンの声、
 それに続けて、
 「もうしばらく頑張るがぁー」
 スギが元気もよく声をだす。
 山男達の脚が速くなる。
 宮田と田島は足取り重く、それでも意思の強さで山男達の脚についてゆく。猟師の道は武士の足のためには造られていなかった。




 太陽が昇るがごとく、若者は熱く語る。

 「ですから私は、これからの時代は刀で世の中を納めるのではなく、組織のあり方、ものの考え方など、世の中の流れを読みつつ調整しつつ、政をすすめ、仕組みをつくり、子どもから年寄りまで学問を広めて、誰もが少なからず 政を・・・・そして・・・・」

 熱く語る言葉は力強く、見えない未来を僧に説いて聞かせる。

 熱く語る友の言葉に、もどかしそうに聞き入る唐一朗が、
 「慎太郎・・熱くなるな」
 客人に当たる僧を、無視して話す友を制する。
 「熱くなど・・」
 慎太郎はより血色をよくし、体に力を入れて唐一朗に言葉を投げる。

 「まあまあ」
 唐一朗は慎太郎をなだめて、
 「私が話す、でないと客人の方はオヌシノ夢に付き合いきれぬぞ」
 唐一朗の言葉に
 「うむ・・・。」
 気まずそうに従う慎太郎。

 慎太郎はひとまず『失礼を』と、僧へと一礼する。それを確認してから唐一朗がしゃべりはじめる。

 「それでは僧どの本題の話です」
 唐一朗が声を低くして僧へと言葉をかける。
 「単刀直入にききますが・・あなたは鬼と一緒におられるはず、いな、鬼と言うより・・・・その・・鬼の正体は・・・」
 
 若者二人は立ち止まり僧の目を見入る。
 立ち止まり面と対じすると、僧の身体は、中々逞しくみえる。つい最近大人へとなったばかりの若者は、僧に比べるとどこか頼りなく小さくも見える。
 思いのほか大きく見える僧の身体と、何処から出るのか一種の威厳が、若者二人を飲み込んでしまう。
 
 「正体は・・・」
 唐一朗がつづける。
 「その正体は・・・鬼の正体は・・・異国の、海を越えた異国の者でしょう」

 唐一朗は、目と肝に力をいれて、僧の目を覗き込んだ。

 若者達の思いがその言葉に強く込められているのか、旅僧がその言葉を聴いた時、まさに気と言うか、空気の壁が僧の身体に押し寄せてくるのを感じていた。

 瞬間の沈黙

 「うむ」旅僧はうなづいていた。
 そして、しばらくの沈黙。

 「・・・聴くが・・。」
 若者の問いかけに答える前に、僧は頭に浮かんだ疑問を問いかけ返した。
 「そのことは・・・二人だけが思うことか・・それとも皆が知る噂か」

 表情を変えずに聞き返す僧に、若者二人は目で合図をとりあい頷きあう。
 「はい」
 慎太郎が応える。

 「ちまたでは鬼が出たと噂が走り、日増しに警戒を強めています。土地土地には幾つもの鬼の伝説も物語りもあり、・・恐れるものあり、また、退治して天下に我が名をと血気盛んな者もおります」
 慎太郎は一呼吸、二呼吸とおき、

 「しかし、世を広く知り手広く商いなどをしている唐一朗の家柄などは知識も見聞も広く、一部ではありますが異国の船が難破し、生き残りの船乗りが身を隠しているのだろうと噂しております。
 ・・・我らが武骨な家柄はただ捕らえることばかりですが、商いの者達は
手を貸して、新しい南蛮との交易を考えているほどです」

 慎太郎は目に力をいれ、刀を握り締め僧へと話して聞かせる。その慎太郎の話が三呼吸ほど途切れたのを確認して、唐一朗が言葉を続ける。

 「私どもは・・・長崎とも取引があり、幼き頃は見聞を広めるために父に連れられ・・出向いたことも・・・。
 幼き頃にみた異国の者達は・・・噂に聞く鬼にそっくりだと・・子ども心に思っておりました」

 唐一朗は少しの緊張をみせ僧へと話をする。
   
 


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