小説★月の道

  26  (2) 時には思い切りが 飛び込め!

26  ときには思い切りが・・飛び込め!


2006. by 聖 ★章弘(akimitsu)


 「私達はそこで休んでいる。私達の話を聴いてくれるならば・・そこにおこしいただきたい・・。私達は敵ではない。 この辺りの山を越えて海に出る道は、すべてに関所があり、腰に刀を携えたものが、怪しいものはすべて手荷物まで調べている。
 海に抜けたいのなら私達と共に抜ける道をゆくのが一番良い策・・。
 行けばわかりまする。・・後で探しても、その時私達は居ないかも・・手遅れになるかも・・どうか洞窟へと来ていただきたい。
 我らが云うこと・・関所でわかる。一緒に歩み進めばわかる。我らが示す道は我らと土民のみの道。 鬼の味方で歩く変わり者は我らのみ・・・・。」

 ・・・・・・・。

 辺りは静かだった。
 小鳥達の朝のさえずりも、山鳩の朝の時告げも、唐一朗の言葉に驚き木々の陰に姿を隠している。
 しばらく物音でも聞こえてこないかと、耳を澄ましていたが何も聞こえてこなかった。

 「聞えているのか・・」
 慎太郎が不安そうに辺りを見回している。
 「なに・・・聞いていても・・ここに居なくても・・他に方法は無い。後は静かに待とう」

 唐一朗は『ふぁー』と大きく伸びをして踵をかえす。
 「さあ、洞窟で一眠りしよう」
 
 自由気ままな次男坊の色をみせ、すたすたと山道を歩いてゆく。

 のんびりと歩く唐一朗の背中を眺めつつ、
 『これでよいのか・・』と、悩みと共に歩き始める慎太郎。
 真面目な性格と武家の長男として育ったその身は、武家の堅苦しい色を見せながら周りを確かめ歩き始める。

 難しい性格からか、慎太郎はどこかで誰かが、クスクスと笑っている声が聞えてくる気がしてならなかった。



 「うっ」
 皆が固まり、反射的に身をしずめる。

 若者の大きな声がいきなり聞えてくる。その声は思いをすべて乗せ力の限り叫んでいる。
 叫ぶ声に
 「ば・・ばれているのですか・・」
 弟子が旅僧に向き、不安の声を上げる。
 旅僧は静かにうなづき、
 「うむ・・・今は・・静かにしていろ・・」

 唇に人差し指をあて弟子に顔を向ける。
 今は静かに叫びに耳を傾けるようだ。

 叫ぶ若者の言葉を聴きながらしばらく息を潜める。言葉の解らぬ鬼も静かにうつむき雰囲気を探っていた。

 若者が伝えたい言葉を叫び終わると静けさが訪れた。いつの間にか円く車座に皆が座り なにやら考え込み始めていた。

 腕組み胡坐をかく旅僧と弟子、胡坐をかき膝に肘のせ頬杖つく鬼、ボウは膝を抱え込み、難しい顔で座り込む大人たちを退屈そうに眺めていた。

 ふと、旅僧が顔をあげる。鬼の顔を静かに見つめている。
 それに気づいたボウが鬼へと目をむける。
 鬼は眉間にしわ寄せ『なに』と二人を見つめ返す。
 弟子は静かに下を向き ぶつぶつ なにやらツブヤキ考え込んでいる。

 「鬼も無精ひげがはえるのか・・。」
 鬼の赤くひかる髭を見ながら旅僧は自前の髭をさする。
 そのつぶやきに弟子は顔を上げ、
 「髭の心配どころではありませんよ・・どうします」
 
 のん気に髭の心配をする旅僧に意見する。それでも旅僧は髭をゆっくりさすりながら
 「うむ」うなづき
 「みよっ 鬼の髭は朱色が混ざりなかなか良いぞ」
 にやにや 鬼の髭に見入っている。

 旅僧の視線と弟子の視線、おまけにボウの視線も髭に集まる。鬼も自分の髭に注目されていることに気づき、叫び聞えていた声と自分の髭の関係を不思議そうに考えていた。

 「オイラは何色の毛が生えるのかな・・」
 ボウが鬼の髭を見ながら自分の顎を触る。鬼は何事だろうと鬼の言葉でボウになにやら聴いてくる。
 ボウは愛想笑いをかえして、
 「やはり黒い髭かな・・」と弟子の顎へと視線をむける。
 「お弟子さんはあまり生えていないや」
 
 弟子の顎見てクスリとボウが笑う。
 弟子も自分の顎に手をあて、
 「手間がかからなくてよいぞ」と笑う。

 ボウは産毛もまばらな自分の顎をさすりながら、片手で鬼の顎に手をやり、指先で鬼の髭を引っ張り始める。
 鬼も自分の顎を突き出し、ボウが引っ張りやすいような格好をし、鬼も大きな手でボウの顎を優しくさすっていた。

 皆がそれを見てクスクスと声を殺して笑い出す。張り詰めていた緊張が徐々に緩み、笑みが皆を包んでゆく。

 旅僧が笑顔のまま、低い厚みのある声で、
 「ボウよ」声をかける。
 「はい」
 厚みのある声におふざけは終わりと感じたボウは、鬼の髭から手を離し
 「何でしょう」
 返事と共に姿勢をただした。

 「あの若者達が叫び知らせてきた言葉・・・どう思う」
 ボウはしばらく自分の顎をさすりながら考えていると、
 「罠でしょうか」と、弟子が身を乗り出してくる
 「そう思うか」
 旅僧は弟子に顔をむけ聞き返す。
 「信じるには・・どうかと・・。用心に越したことはないと・・。」
 自信無げに応える。
 
 「どうだボウよ」
 旅僧はボウに顔をもどし返事を催促してみた。ボウは顎をさすりながら、空にとどまる明けの明星を見つめて、
 「・・・やっぱりすごいなぁー。人の噂は一夜で千里走るというけど・・すごいなぁー・・・追っ手と待ち伏せの関所か・・・。」

 ボウは鬼とであって二度の夜のあいだに、見たことも無い海の辺りまで鬼の話が伝わっているのが不思議でならなかった。
 感心することしばらく、

 「噂はどうやってはしるのだろう。
 かぜにのるのかなぁー・・・風に乗って走るのかな・・風の噂というしなぁー・・・でも、オイラは風とは話したことが無いしな・・噂を運んでいる風をみたこともないや・・・。」
 


tgjxn958@yahoo.co.jp         
                            

                                 にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

 

トラックバック