小説★月の道

25 時には思い切るがいい

 25 ときには思い切りがいる。



                                 by 聖 ★章弘(akimitsu)

 

 「それだっ」
 唐一朗が慎太郎の刀を指差し、
 「自分の左手を見て見るがいい、刀の鞘を握り締めているだろう」
 慎太郎は自分の左手をみて、
 「それがどうした。これは・・儂の癖だ」

 唐一朗は真剣な顔になり、
 「それが駄目だと云うのだ。儂はそれを癖だと知っているが、知らぬ奴だと殺気を感じて構えてしまうぞ」
 「・・・・・。」

 静まり、唐一朗を見つめる慎太郎。
 「よいか慎太郎」

 唐一朗は静かにその場にしゃがみこみ、
 「昨夜、確かにここで人の話し声をきいた」
 慎太郎もしゃがみ込みながら、
 「ああ・・確かに・・あちらの藪の中・・辺りだ」

 慎太郎は少し身を起こし、離れた場所の藪を指差した。
 指差す慎太郎へ、

 「そうだ。奇妙な話し声だ。大人の声に子どもの声・・聞き取った話の内容だとこの辺りで一晩過ごしているはず・・。
 夜中だったから・・まだ、この辺りにいる・・眠っているはずだ」
 
 慎太郎は静かに『うむ』と、うなづく。
 「儂らは、この獣道で交互に眠りについた。何も通らなかったし静かな夜だった」
 慎太郎はうなづき、
 「ああっ、何も通らなかったし、獣も姿を見せず静かな夜だった」
 「うむ・・・だからまだ・・。」

 唐一朗は立ち上がり藪を指差し、
 「あそこにいる」
 静かに力をこめてつぶやく。


 「我らが考えが的を射ているなら、昨夜の話し声にも鬼と云う言葉が聞こえていた。・・鬼もあそこに・・。
 ・・その正体も我らが考えに間違いは無い・・うかつに姿を見られると身を隠されてしまうかもしれん。
 ここはひとつ儂らの存在を知らせて・・しかも我らが鬼に対して敵意も無く・・逆に交友を持ちたい程だと・・気持ちを示したがよい」

 
 云い終わると再び唐一朗はしゃがみ込み、

 「気持ちをしめそう」
 「・・・どうしろと・・。」
 「・・まだ・・・よく解らんが・・・」
 「・・・。」

 慎太郎は言葉も無く唐一朗を見つめている。

 「しかし」
 唐一朗がつづける。

 「鬼の正体が我らが考え通りなら、・・慎太郎・・・お前の夢がかなうかも・・あそこで」
 唐一朗は藪を指差し、
 「あそこで・・あの藪で・・儂らの話を聴いているかもしれん。我らの思う鬼の正体を聞こえるように叫び・・お前の気持ちを素直に話してはどうか・・。」

 唐一朗の思い切った言葉に、慎太郎は慌てるだけだった。
 「・・・そんな・・。」
 黙りこむ慎一郎に、
 「で、なかったら・・ここで待ち伏せして飛び出し、話を聴いてもらうか・・相手は驚き争いになるかも知れぬぞ・・。」
 「・・・・。」
 「・・・・。」
 二人はしばらく言葉がなかった。

 「こうしよう」
 慎太郎が口火をきる。

 この辺りで待ち伏せして見つけたら後をついてゆき、話をする機会をまとう・・。」
 その慎太郎の意見に
 「だから駄目なんだ」と、唐一朗が首を横に振る。
 「駄目とは何だ駄目とは」
 慎太郎はムキになり唐一朗へと講義する。そんな慎太郎に唐一朗は、肩へと手をかけて、
 
 「慎太郎・・お前は考えすぎだ。そんな気の長いことでどうする・・・。これを逃したらいつ機会が訪れると思っている。
 何度もないぞ・・・今しかないぞ・・勝負は早いが良い、早いが・・。」
 「しかし・・・。あそこの藪にいるのかどうなのか・・はっきりと解らぬぞ・・。」 
 慎太郎の言葉に唐一朗はうなづき、
 
 「なおさらだ・・。いなければそれまで、居たら何か云うてくるさ・・。隠れたままなら儂らも引き上げて、歩くであろう場所に静かに待っていよう」
 そこまで云うと唐一朗は慎太郎の肩から手をはなし、勢いよく立ち上がり『ゴホン』と咳払いをして、

 「私は」大きな声で叫ぶと息を吸い込み、
 「私の名前は唐一朗っ。この辺りから海まで土地を持ち、山では材木山菜、肥えた土地では米、海では漁を・・人をたくさん使い商いをしている家の次男坊。そして、もう一人緊張して小さくなっているのはっ」
 「ちいさくないぞっ」
  
 唐一朗の名乗りに慌てて立ち上がる慎太郎。
 唐一朗は構わず名乗り続ける。
 
 「武家の長男でわたしの幼なじみの慎太郎。鬼の噂を聞き、もしやと思うところがあり・・・・ぜひとも会いたくて探しにまいりました。
 ・・・心配は要りません。私どもは二人・・・・昨夜あなた方の話す声も聴いております・・・。どうか・・姿を見せてもらいたい・・。そして、少しばかり私達の話も聴いていただきたい・・・。」

 ・・・・・・・・・。

 辺りは静まり返っている。
 東の空は太陽こそ見えないが、明るくなっている。
 太陽が山を越えて姿を現すのは今しばらくだろう。

 「・・寝ているのか・・」
 慎太郎が静かにつぶやく。
 「・・・あれだけのおおごえ・・隠れているのだ」
 ・・・・しずかだった。

 「少し距離があるから聞こえないのか・・・味方であることを示そう」
 唐一朗がつぶやく。
 「どうやって」
 慎太郎が唐一朗の横顔を、チラリとみて小声で尋ねる。
 「・・うむ・・・。」
 しばらく考え込んだ唐一朗は、両手を口元にあて腹に力をこめる。

 「わたくしたちはっ」
 いきなりの大声。
 慎太郎は驚き肩をすくめる。
 唐一朗はお構いなしに、
 「今からこの先に歩いてゆくっ ・・しばらく歩くと道は二手に分かれ・・・右に行くと洞窟が・・」

 懇親の叫びが静かな朝を走り抜けてゆく。


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