小説★月の道

24 ありかただ。在りかた

 24 在りかただ。あり方を考えろ

by 聖 ★章弘(akimitsu)

  「うむ・・・」
 旅僧は静かに自分の体に意識を向ける。
 「・・・かまれた様子はないな・・」
 旅僧はで弟子とボウ、そして鬼を見回し寝息をたしかめて、
 「歩くぞ、さあおきろ、おきろよ子ども」

 まず弟子が飛び起きた。普段は師よりも先に起き、身の回りの世話をしている身。いつもの癖もあり寝過ごしたかと飛び起きた。

 「あっ」
 驚きと共に昨夜の事を思い出す。
 つづいて鬼がのん気に伸びをしながら起き上がる。みなの気配にボウももぞもぞと起き上がり辺りを見回す。
 弟子が見張りを代わらずに寝込んでいたのを詫びている最中だった。
 「わっははは」
 師は軽くわらい、
 「儂も寝ていた。気にせずによい」
 とうなづいている。
 「それよりも早くここを出るとしよう。さあ、荷を持て」

 弟子は慌てて荷物を担ぎ、担ぎ終わると師を手伝う。
 その横では鬼が立ち上がり
 「あう」
 息を飲み込み、急にしゃがみこむ。
 「なんだ」
 皆がびっくりとして慌てて座り込む
 「どうした」
 旅僧が鬼へと小声で言葉をかける。
 鬼は旅僧へと、聴きなれた訛りの意味不明の言葉をしゃべりだす。
 
 「言葉では解らん」
 旅僧は自らの目で確かめようと立ち上がりかけると、
 「なっ」
 鬼の大きな手が旅僧の首元をつかみ地面に引き倒す。
 旅僧は鬼の力に任せて地面に伏せてしまう。その光景に弟子は驚き、鬼は気でも触れたかと、師を助けようと鬼の腕をつかみ一緒に倒れこむ。

 「なっむ」
 声をだそうとする二人の坊主の口元を鬼のデカイ手がふさいでくる。鬼は慌てて何かを二人へ伝えようと小声でしゃべるが、意味不明の言葉にどうしたものかと悩んでいると、
 「あっ」
 ボウの声が聞こえてくる。次の瞬間ボウも慌てて座り込む。

 「いるいる」
 小声でうったえる。
 「しずかに静かに」
 ボウがおしころした声で云うと、旅僧も弟子も、もがくのをやめてゆっくりと身体をひねり、鬼の手をどけてボウへと向き直る。

 何かから隠れるように身を鎮めているボウを見て旅僧と弟子もとりあえず静かに身を鎮めた。

 『なるほど』
 静かに身を鎮めていると、ぼそぼそと話し声が聞こえる。
 旅僧は静かにゆっくりと立ち上がってみた。背丈ほどの藪の上にゆっくりと背伸びをし、頭を出して伺い見る。

 山が見える。

 盆地の終わりは近い、そのなか意識をあたりに走らせると、
 「はっ」人影
 そう思い頭を少し下げて山のほうに頭を向ける。
 人影、そして話し声。

 藪から頭と目玉を出して覗くその右横に、弟子がゆっくりと生えるように立ち上がってきた。弟子のほうにチラリと目をやると、鼻の下を伸ばすようにして山へと視線をむけている。
 旅僧も山へと視線を戻すと、今度は左横に気配を感じる。ふと視線をむけると、鬼が同じように鼻の下を伸ばし山へと視線をむけていた。

 旅僧と弟子と鬼とで、目玉から上を藪からだして覗いていると、旅僧と鬼のあいだに、もう一つ頭が生えてきた。

 ボウが鬼の背中を這い上がり、一緒に山へと視線をむける。
 
 本の夜明け前、山のほうに見えるのは人の影だった。

 ボウはずり落ちるように鬼の背中から消え、
 「しゃがまなきゃ見つかってしまいますよ」
 小さな声で、皆の袖や足元を引っ張り
 「はやく」と、せかす。
 みんなでしゃがみこみ、息を殺して山へと気をむけ気配をつかもうとしていた。
 しゃがんだ皆の耳にはかすかな話し声が聞こえてきていた。



 刀の大小を携えた二十歳ほどの若者が、辺りをキョロキョロと見回している。そこから少し離れた場所では育ちのよさそうな若者が、裕福さをにじませた身なりで遠くを見回している。

 一人は武家の長男、一人は金持ちの商人の次男坊あたりだろう。その次男坊が
 
 「どうだ慎太郎・・見えるか」
 大声で、刀を差した若者へと声をかける。
 「しっ 声がでかいぞ」
 刀を差した若者は、刀の鍔に手をかけ、
 「唐一朗、自由気ままな金持ちの次男坊の癖はなおせ、近くにいたら儂らのことが知れてしまうぞ。・・慎重にならなくては・・。」

 唐一朗と呼ばれる若者はニヤリと笑い、
 「そういう慎太郎こそ、いま大きな声で叫んでいるぞ」
 くすくすと笑い、ゆっくりと慎太郎と呼ばれる若者に近づいてゆく
 「い・・いいから・・こちらに来い」
 慎太郎は手招きを入れて唐一朗を呼び寄せる。
 
 「慎太郎はそれが駄目だ」
 近づくなり唐一朗は軽い笑みをみせ、慎太郎に説教を始める。
 「何がだめだ」
 慎太郎はムッとして言い返す。
 「唐一朗は考えが浅いのだ」
 唐一朗は軽く首を左右に振り、
 
 「いかにも武家の跡取りのような難い頭は捨てたがよい・・。刀を差してコソコソとしていては、相手も警戒するぞ」

 「・・コソコソなど・・じゃ・・どうしろと云うのだ」
 慎太郎はイライラとした気持ちを隠すように、刀の鞘を握り締めている。





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