31 わくわくの異世界
by 聖 ★章弘(akimitsu)
「鬼の・・毛だがぁ・・」
杉のこたえに
「まさか・・・」と、
『鬼を追うから力をかせ』と云った武士二人からこぼれてきた。
「まさかって・・・お侍方が鬼を探しているがぁ・・・見たこと無い毛だがぁ」
杉は笑みを見せながら
「こんなに赤くて、くるくると巻いた毛は・・・オイラの指よりも長い毛だがぁ・・・見たこと無い毛・・鬼だがぁー」
「そ・・そうだ。すまぬ。儂らも見たことが無いので・・つい・・」
四人は交代で赤毛を指につまみ、天にかざし、手のひらに乗せ、いろいろな角度から見つめてみる。
「オーイ足跡があるがぁ」
源の声が聞こえてくる
「んっ」
皆がいっせいに声を探して顔をあげた。
「あそこだがぁ」
武が姿を見つけて指差す。
「行こう」
田島が源に向かい歩き出すと、その後ろに皆が続いて歩き出す。
今朝通った者たちと、ここに居る者達が歩いた藪はすっかり歩きやすくなっていた。
「ここだここ」
源が立っている場所はかなり踏み荒らされていた。
「ここだがぁ。ここでしばらくウロウロした跡があるがぁ」
源はそのまま獣道を注意深く観察して、
「山のほうから二人ばかり来て・・ここで、しばらくウロウロとしていたがぁ・・・そして、藪のほうから・・幾人か来ているがぁ」
そこまで云うと源は頭を挙げて、山の奥深くを指して、
「まちがいねぇがぁ。ここで足跡は・・五人か六人・・・一つは小さいがぁ・・こどもかぁー。・・そしてもう一つ・・・。」
源は宮田と田島、そして杉と武の顔を見回し、
「一つは飛び切りにでかい足跡だがぁ」
皆はゆっくり顔を見合わせて、
『うむ』と頷きあい、宮田の『行こう』の、緊張した言葉で歩き始める。
宮田と田島の疲れた脚は、自分の使命を思い出して軽くなり、猟師の足は手強そうな狩りの相手に緊張が走る。
ひとり、武だけが、心強い武士と猟師にはさまれた安心感で、未知の鬼へと心躍っていた。
武士と猟師の進む場所には、不安を呼び起こす朝靄が木々を隠すほどかかり、武がついてゆく場所にはワクワクとさせる朝靄が木々を隠していた。
14
ボウと弟子と鬼の耳には、
前方から聞こえる旅僧たちの声とは別に、後ろから聞こえてくる声にも気付いていた。
今までの旅の空、大人しく師に付き歩いてきた若者は、幼い意志と出会い、意志のあり方一つを見て視野が広がっていた。
しかも今、頼るべき師は前方、一緒に居るのは生きる道を探す幼い童子と、帰る道を探す孤独の鬼。
『私がしっかりしなければ』
新たな決意が、自らの意志で生まれてきていた。
その意志が、
「おかしい」
と、警戒している。
『はやく判断しなくては』
決意が意志をせきたてる。
前方と後方を交互に見回し、神経を耳に集中させて聞き分ける。
ボウも鬼も音を聞き分けるために足を止め、横を向いて前方と後方に耳を集中させる。
「あっ聞こえる」
ボウは後方から聞こえる音に、声に、意識を向け身を屈めた。
濃くなる朝靄の奥から声が聞こえてくる。
それは今、自分達が歩いてきた道を歩いてきている様子だった。ボウは知らずに屈めていた身を起こし、靄の中から鬼のほうへと顔を向けてみる。
鬼は無表情に靄の中を見つめ、微かに聞こえてくる声に恐怖して後ずさっている。
弟子は眉を寄せ、靄の中へ意識を飛ばして必死で声の正体を掴もうとしていた。
ボウはもう一度眼を凝らし、辺りを濃く包み込む靄の中へと意識を向けてみた。
「・・・・雲の中って・・こんな感じなのかな」
緊張した空気の中に、ただ浮かび上がる疑問が口からこぼれだす。
「この中に居るのは雷様かも知れないね」
弟子へと顔を向けてみるが何も返事が無い。
ボウは靄へと視線を戻して、
「追っ手かな」つぶやくと、
「うむ」
弟子は聞こえる気配に集中したまま頷いている。
弟子は中途半端についた知識と経験と常識の中で、すばやい判断が出来ずに立ち尽くしている。
それとは逆に、考えるよりも行動する事が先になるボウは、痺れを切らして、
「オイラ見てくる」
般若の面を懐から出して顔にかぶると、来た道をトコトコと駆け出した。
その背中へ、
「ボウ危ない・・待つんだ」
押し殺した声で弟子が呼び止める。
ボウはすっかり『やめとけ』と、止められると思って振り向いたが、
「気をつけろ」
と、言葉を投げてきた。
靄は濃くなり、辺りはまさに雲の中だった。
靄なのか霧なのか・・はたまた雲か、白いものに包まれる般若は、まさに『異界の者』そのものだった。
その異界の者は コクリ と頷き、白い世界にゆっくり溶け込んでゆく。
その溶け込んでゆく異界の者に、
「キヲツケロ」
異界の者が声をかけて笑顔で手を振っている。
「えっ」
弟子が驚き鬼から一歩はなれ、鬼と般若へ交互に視線をむける。弟子は驚き眺めているが、白い世界に溶け込んでゆく般若は
「うんっ」
小さな声で頷いていた。
若き修行僧は笑顔で手を振る鬼にも驚いたが、ボウが頷くことで般若も微笑んでやさしく見えるのにも驚いた。
仏の世界もあれば、物の怪(もののけ)の世界もある
同じ人の世界にいても、周りに居る『人』が違えば、その世界は違う世界になる。
幼き頃にきいた極楽地獄は紙一重。その言葉が『真実かも』と始めて思え、人の間で人になる。人間とはよく云ったものだとつくづく思う。
このときに周りに置く人間と、自分が身を置く場所に
『気をつけなくては・・・』
どの間に自分が在るべきか、大切なことだと、自分のつくり方をふと考える。
心と身体が人へと成長している若者の、一つのあり方に気付いた瞬間だった。

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by 聖 ★章弘(akimitsu)
「鬼の・・毛だがぁ・・」
杉のこたえに
「まさか・・・」と、
『鬼を追うから力をかせ』と云った武士二人からこぼれてきた。
「まさかって・・・お侍方が鬼を探しているがぁ・・・見たこと無い毛だがぁ」
杉は笑みを見せながら
「こんなに赤くて、くるくると巻いた毛は・・・オイラの指よりも長い毛だがぁ・・・見たこと無い毛・・鬼だがぁー」
「そ・・そうだ。すまぬ。儂らも見たことが無いので・・つい・・」
四人は交代で赤毛を指につまみ、天にかざし、手のひらに乗せ、いろいろな角度から見つめてみる。
「オーイ足跡があるがぁ」
源の声が聞こえてくる
「んっ」
皆がいっせいに声を探して顔をあげた。
「あそこだがぁ」
武が姿を見つけて指差す。
「行こう」
田島が源に向かい歩き出すと、その後ろに皆が続いて歩き出す。
今朝通った者たちと、ここに居る者達が歩いた藪はすっかり歩きやすくなっていた。
「ここだここ」
源が立っている場所はかなり踏み荒らされていた。
「ここだがぁ。ここでしばらくウロウロした跡があるがぁ」
源はそのまま獣道を注意深く観察して、
「山のほうから二人ばかり来て・・ここで、しばらくウロウロとしていたがぁ・・・そして、藪のほうから・・幾人か来ているがぁ」
そこまで云うと源は頭を挙げて、山の奥深くを指して、
「まちがいねぇがぁ。ここで足跡は・・五人か六人・・・一つは小さいがぁ・・こどもかぁー。・・そしてもう一つ・・・。」
源は宮田と田島、そして杉と武の顔を見回し、
「一つは飛び切りにでかい足跡だがぁ」
皆はゆっくり顔を見合わせて、
『うむ』と頷きあい、宮田の『行こう』の、緊張した言葉で歩き始める。
宮田と田島の疲れた脚は、自分の使命を思い出して軽くなり、猟師の足は手強そうな狩りの相手に緊張が走る。
ひとり、武だけが、心強い武士と猟師にはさまれた安心感で、未知の鬼へと心躍っていた。
武士と猟師の進む場所には、不安を呼び起こす朝靄が木々を隠すほどかかり、武がついてゆく場所にはワクワクとさせる朝靄が木々を隠していた。
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ボウと弟子と鬼の耳には、
前方から聞こえる旅僧たちの声とは別に、後ろから聞こえてくる声にも気付いていた。
今までの旅の空、大人しく師に付き歩いてきた若者は、幼い意志と出会い、意志のあり方一つを見て視野が広がっていた。
しかも今、頼るべき師は前方、一緒に居るのは生きる道を探す幼い童子と、帰る道を探す孤独の鬼。
『私がしっかりしなければ』
新たな決意が、自らの意志で生まれてきていた。
その意志が、
「おかしい」
と、警戒している。
『はやく判断しなくては』
決意が意志をせきたてる。
前方と後方を交互に見回し、神経を耳に集中させて聞き分ける。
ボウも鬼も音を聞き分けるために足を止め、横を向いて前方と後方に耳を集中させる。
「あっ聞こえる」
ボウは後方から聞こえる音に、声に、意識を向け身を屈めた。
濃くなる朝靄の奥から声が聞こえてくる。
それは今、自分達が歩いてきた道を歩いてきている様子だった。ボウは知らずに屈めていた身を起こし、靄の中から鬼のほうへと顔を向けてみる。
鬼は無表情に靄の中を見つめ、微かに聞こえてくる声に恐怖して後ずさっている。
弟子は眉を寄せ、靄の中へ意識を飛ばして必死で声の正体を掴もうとしていた。
ボウはもう一度眼を凝らし、辺りを濃く包み込む靄の中へと意識を向けてみた。
「・・・・雲の中って・・こんな感じなのかな」
緊張した空気の中に、ただ浮かび上がる疑問が口からこぼれだす。
「この中に居るのは雷様かも知れないね」
弟子へと顔を向けてみるが何も返事が無い。
ボウは靄へと視線を戻して、
「追っ手かな」つぶやくと、
「うむ」
弟子は聞こえる気配に集中したまま頷いている。
弟子は中途半端についた知識と経験と常識の中で、すばやい判断が出来ずに立ち尽くしている。
それとは逆に、考えるよりも行動する事が先になるボウは、痺れを切らして、
「オイラ見てくる」
般若の面を懐から出して顔にかぶると、来た道をトコトコと駆け出した。
その背中へ、
「ボウ危ない・・待つんだ」
押し殺した声で弟子が呼び止める。
ボウはすっかり『やめとけ』と、止められると思って振り向いたが、
「気をつけろ」
と、言葉を投げてきた。
靄は濃くなり、辺りはまさに雲の中だった。
靄なのか霧なのか・・はたまた雲か、白いものに包まれる般若は、まさに『異界の者』そのものだった。
その異界の者は コクリ と頷き、白い世界にゆっくり溶け込んでゆく。
その溶け込んでゆく異界の者に、
「キヲツケロ」
異界の者が声をかけて笑顔で手を振っている。
「えっ」
弟子が驚き鬼から一歩はなれ、鬼と般若へ交互に視線をむける。弟子は驚き眺めているが、白い世界に溶け込んでゆく般若は
「うんっ」
小さな声で頷いていた。
若き修行僧は笑顔で手を振る鬼にも驚いたが、ボウが頷くことで般若も微笑んでやさしく見えるのにも驚いた。
仏の世界もあれば、物の怪(もののけ)の世界もある
同じ人の世界にいても、周りに居る『人』が違えば、その世界は違う世界になる。
幼き頃にきいた極楽地獄は紙一重。その言葉が『真実かも』と始めて思え、人の間で人になる。人間とはよく云ったものだとつくづく思う。
このときに周りに置く人間と、自分が身を置く場所に
『気をつけなくては・・・』
どの間に自分が在るべきか、大切なことだと、自分のつくり方をふと考える。
心と身体が人へと成長している若者の、一つのあり方に気付いた瞬間だった。
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