小説★月の道

31 わくわくの異世界

31 わくわくの異世界



by 聖 ★章弘(akimitsu)


 「鬼の・・毛だがぁ・・」
 杉のこたえに
 「まさか・・・」と、
 『鬼を追うから力をかせ』と云った武士二人からこぼれてきた。
 「まさかって・・・お侍方が鬼を探しているがぁ・・・見たこと無い毛だがぁ」
 杉は笑みを見せながら
 「こんなに赤くて、くるくると巻いた毛は・・・オイラの指よりも長い毛だがぁ・・・見たこと無い毛・・鬼だがぁー」

 「そ・・そうだ。すまぬ。儂らも見たことが無いので・・つい・・」
 四人は交代で赤毛を指につまみ、天にかざし、手のひらに乗せ、いろいろな角度から見つめてみる。

 「オーイ足跡があるがぁ」
 源の声が聞こえてくる
 「んっ」
 皆がいっせいに声を探して顔をあげた。
 「あそこだがぁ」
 武が姿を見つけて指差す。

 「行こう」
 田島が源に向かい歩き出すと、その後ろに皆が続いて歩き出す。

 今朝通った者たちと、ここに居る者達が歩いた藪はすっかり歩きやすくなっていた。
 「ここだここ」
 源が立っている場所はかなり踏み荒らされていた。
 「ここだがぁ。ここでしばらくウロウロした跡があるがぁ」
 源はそのまま獣道を注意深く観察して、
 「山のほうから二人ばかり来て・・ここで、しばらくウロウロとしていたがぁ・・・そして、藪のほうから・・幾人か来ているがぁ」

 そこまで云うと源は頭を挙げて、山の奥深くを指して、
 「まちがいねぇがぁ。ここで足跡は・・五人か六人・・・一つは小さいがぁ・・こどもかぁー。・・そしてもう一つ・・・。」

 源は宮田と田島、そして杉と武の顔を見回し、
 「一つは飛び切りにでかい足跡だがぁ」
 皆はゆっくり顔を見合わせて、
 『うむ』と頷きあい、宮田の『行こう』の、緊張した言葉で歩き始める。

 宮田と田島の疲れた脚は、自分の使命を思い出して軽くなり、猟師の足は手強そうな狩りの相手に緊張が走る。

 ひとり、武だけが、心強い武士と猟師にはさまれた安心感で、未知の鬼へと心躍っていた。
 武士と猟師の進む場所には、不安を呼び起こす朝靄が木々を隠すほどかかり、武がついてゆく場所にはワクワクとさせる朝靄が木々を隠していた。

         
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ボウと弟子と鬼の耳には、
 前方から聞こえる旅僧たちの声とは別に、後ろから聞こえてくる声にも気付いていた。

 今までの旅の空、大人しく師に付き歩いてきた若者は、幼い意志と出会い、意志のあり方一つを見て視野が広がっていた。

 しかも今、頼るべき師は前方、一緒に居るのは生きる道を探す幼い童子と、帰る道を探す孤独の鬼。

 『私がしっかりしなければ』
 新たな決意が、自らの意志で生まれてきていた。
 
 その意志が、
 「おかしい」
 と、警戒している。
 『はやく判断しなくては』
 決意が意志をせきたてる。

 前方と後方を交互に見回し、神経を耳に集中させて聞き分ける。
 ボウも鬼も音を聞き分けるために足を止め、横を向いて前方と後方に耳を集中させる。
 
 「あっ聞こえる」
 ボウは後方から聞こえる音に、声に、意識を向け身を屈めた。

 濃くなる朝靄の奥から声が聞こえてくる。
 それは今、自分達が歩いてきた道を歩いてきている様子だった。ボウは知らずに屈めていた身を起こし、靄の中から鬼のほうへと顔を向けてみる。
 鬼は無表情に靄の中を見つめ、微かに聞こえてくる声に恐怖して後ずさっている。
 弟子は眉を寄せ、靄の中へ意識を飛ばして必死で声の正体を掴もうとしていた。

 ボウはもう一度眼を凝らし、辺りを濃く包み込む靄の中へと意識を向けてみた。

 「・・・・雲の中って・・こんな感じなのかな」
 緊張した空気の中に、ただ浮かび上がる疑問が口からこぼれだす。

 「この中に居るのは雷様かも知れないね」
 弟子へと顔を向けてみるが何も返事が無い。

 ボウは靄へと視線を戻して、
 「追っ手かな」つぶやくと、
 「うむ」
 弟子は聞こえる気配に集中したまま頷いている。

 弟子は中途半端についた知識と経験と常識の中で、すばやい判断が出来ずに立ち尽くしている。
 それとは逆に、考えるよりも行動する事が先になるボウは、痺れを切らして、
 「オイラ見てくる」
 般若の面を懐から出して顔にかぶると、来た道をトコトコと駆け出した。

 その背中へ、
 「ボウ危ない・・待つんだ」
 押し殺した声で弟子が呼び止める。
 ボウはすっかり『やめとけ』と、止められると思って振り向いたが、
 「気をつけろ」
 と、言葉を投げてきた。

 靄は濃くなり、辺りはまさに雲の中だった。
 靄なのか霧なのか・・はたまた雲か、白いものに包まれる般若は、まさに『異界の者』そのものだった。

 その異界の者は コクリ と頷き、白い世界にゆっくり溶け込んでゆく。
 その溶け込んでゆく異界の者に、
 「キヲツケロ」
 異界の者が声をかけて笑顔で手を振っている。

 「えっ」
 弟子が驚き鬼から一歩はなれ、鬼と般若へ交互に視線をむける。弟子は驚き眺めているが、白い世界に溶け込んでゆく般若は
 「うんっ」
 小さな声で頷いていた。

 若き修行僧は笑顔で手を振る鬼にも驚いたが、ボウが頷くことで般若も微笑んでやさしく見えるのにも驚いた。

 仏の世界もあれば、物の怪(もののけ)の世界もある

 同じ人の世界にいても、周りに居る『人』が違えば、その世界は違う世界になる。

 幼き頃にきいた極楽地獄は紙一重。その言葉が『真実かも』と始めて思え、人の間で人になる。人間とはよく云ったものだとつくづく思う。
 このときに周りに置く人間と、自分が身を置く場所に
 『気をつけなくては・・・』

 どの間に自分が在るべきか、大切なことだと、自分のつくり方をふと考える。
 心と身体が人へと成長している若者の、一つのあり方に気付いた瞬間だった。



       
                            

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30  鬼の寝床か

30 鬼の寝床か・・・



                                     by 聖 ★章弘(akimitsu)
 

 「この場所からどれ程かかる・・近いのか・・・」
 宮田は気の焦りを隠そうともせずに、杉にせまり聴いてくる。
 「おお」
 杉が驚き後ずさりながら、
 「あっ・・ここから・・そう遠くは無いと思うがぁ・・な・・なあ、源さん・・」
「ああそうだがぁ。しかし山道だがぁ今しばらく脚を速めるがぁ」

 宮田の傷が迫力となり近づく、
 「そんなに怖い顔してちかづかなくてもいいがぁ・・・」
 目の前に迫り来る顔から後ずさる杉。そんな杉から源へと向き直り
 「行こう」と、先に歩き出す宮田。

 「声からして少しの距離がありそうだがぁ・・聞こえるには聞こえたが」
 田島が距離に対して不安があるようにつぶやいた。
 「あれで解るのか・・」
 聞いてくる田島に源は、
 「山だがぁ」
 源も歩き出しながら、
 「山がぁあるでぇ、そしてほれ」
 源は左手を上げ、
 「盆地だぁ」と、指をさす。
 
 暗い間は気づかなかったが左手には盆地があり、明るくなる今はその広がりを見ることができた。
 「儂らの経験から、この辺りは声の聞こえた方向にその声の主もいるがぁ」
 源が歩きながら説き始める。

 「この盆地は脚の強い奴なら一晩で歩ききることも出来る。人こそ住んでないが儂らや他の集落村々から集まり手入れしてあるがぁ・・・。秋には栗だの初夏には筍だの・・・この盆地を北に向かってゆくと自然と今から行く場所へとたどりつくがぁ・・まあ、多少の誤差はあるがなぁ」

 源はもう一度指差し。
 「だが、西に行くとどうしようもないがぁ、追いつくことは無理がぁ。・・・待ち伏せ場所で間違いないがぁ、今 鬼がどうとか叫んでいる声も聞こえたことだし頑張るがぁ」
 田島は頷き黙り込む。
 「とにかく」
 宮田が元気を出すように声に張りをつくり、
 「いそごう。鬼と言う言葉が出た・・・それは確かだ」
 張りのある声を頑張ってだしても、どこか生きも絶え絶えとなっている。

 「ううっ」
 武が肩を小刻みに震わせ
 「現実味が出てきたがぁ。ゲンさん急ぐがぁ」
 身震いをみせ、武が源の背中を押すように歩き始める。
 山男達の脚は疲れを見せず速かった。宮田と田島は疲れの色が見て取れるほどだったが、弱音を見せず山男達の脚に負けじと歩いていった。



 「・・ここか」
 疲れも重なり古傷が痛むのか、顔に走る傷をさすりながら宮田がつぶやく。
 田島も木に手をつき、丸い身体の背を丸めて苦しそうに息をする。
 「・・ど・・・どこだ・・このあたりか・・。」
 
 山男達は武士の言葉には返事もせず辺りをキョロキョロと見回している。
 「これは人が通った後だがぁ」
 武が頭の辺りのくもの巣を覗き込みながら、
 「くもの巣が壊されているがぁ・・家主の蜘蛛も隅で途方にくれているがぁ、・・・壊されてあまりたってないがぁ」

 武の言葉に、宮田と田島が脚を引きずるように歩きちかづき、その蜘蛛の巣を真剣に見つめる。
 「・・なるほど」
 真下に来て確かめるのも必死の様子だ。
 二人で一言「なるほど」と言ったきり、後は誰かが何かを発言するのを深呼吸して待っているだけだった。

 さすがに疲れきった様子のわかる二人に、武が声をかけようと脚を一歩踏み出したときだった。

 「おーい」
 邪魔をするように藪の中から杉の声がする。
 何かを見つけた様子の声だ。

 「ここだぁっココ。ここで寝ていたがぁー・・・人の歩いた後があるがぁ、それをたどったら・・・ここに寝床にした跡があるがぁ・・たぶんさっきまでここにいたがぁ」
 杉の声に武が
 「ほんとがぁ」
 疲れた者へのいたわりをわすれ、すかさず踵をかえして
 「スゴイがぁ、鬼の寝床がぁ見るの初めてだがぁ」
 杉の元へと走りよる。

 疲れを知らない若者の背中を目でおい、宮田と田島は疲れた身体を奮い立たせ、
 「あ・・今行く・・荒らすな」
 藪を突っ走る武に声をかける。

 聞こえているのか無視しているのか、
 「おおおっー」と、武の驚きの声が聞こえてくる。

 二人の武士はその声に、『早く見たい』と好奇心が湧き上がり、切れ切れの息も何処へやら、足取り速く藪を進んでいた。

 宮田と田島は近づく距離に比例して心臓の鼓動が早まってゆく。目の前に見える武を押し退け
 「ここか」
 飛び込んだ場所は大人が数人、眠るために踏み固められたあった。
 その中で杉が空に向かい何かをかざして見つめている。
 「お侍がたぁ」
 杉が見入ったまま声をかけてくる。
 
 「こいつは少し毛色が違うがぁ」
 「なに」
 何のこと と 宮田と田島が杉を見つめて返事をする。
 「これだがぁー」
杉は振り返り、少しねじれた赤毛を目の前にかざして見せた。
 
 宮田と田島は目の下の隈を浮き上がらせ、眼をシバシバさせて必死に見ている。
 眼を近づけるだけるだけ近づけて、
 「毛・・獣のでは・」
 宮田がつぶやく。
 「いや・・」
 杉は自信たっぷりと静かに首をふっている。

 「これは熊でも鹿でも狸でもない・・山犬ともちがうがぁ・・」
 自信ありげに振っていた首は少し傾げてとまっている。
 「・・なんだ・・。」
 田島が赤毛と杉を交互に見つめて聞いてくる。
 


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29 楽しくて

29  楽しくて




by 聖 ★章弘(akimitsu)  

 「このたび、風に聞く噂は、まさに私が幼き頃に見た鬼にそっくり。その話を慎太郎にすると、時の先に興味のあるこいつがぜひとも鬼に会い、機会があれば異国の進んでいると聴く学問に触れたいと申しますので、山を越え早馬が役所に伝える噂を当てに、我々で何処行く道かを検討し、進はこの道と感を頼りに、この場所で待っておりました」

 唐一朗の話に旅僧はニコリと笑みを見せ
 「若いのに知恵のまう」
 含みを持たせて、軽く感心して見せる。
 「さてさて・・・そんなに早く噂が走るとすると・・・私達が少々身を低くして歩いたところで見つかるのも・・・。実際に慎太郎殿と唐一朗殿と・・・見破られて、ここにこうしている・・・。」

 旅僧のつぶやきに若者二人は
 「ぉぉぉっ」声を潜め気味に
 「やはり・・やはり鬼は一緒に・・・我らから遠くないところで身を隠していると・・・」

 慎太郎は興奮して旅僧に歩み寄り、肩に腕かけ揺さぶる。揺さぶられる旅僧と慎太郎を見て唐一朗が、
 「これ、これっ、慎太郎っ迷惑な・・興奮するなっ」
 唐一朗が興奮する慎太郎の腕に手をやりなだめに入る。
 慎太郎は我に返り、肩から手を離して
 「申し訳ない」と、慌てて頭を下げる。

 「ははっははっははっ。これはよい。儂もそれだけ熱くなりたいものだ」
 若者二人の行動は、旅僧の気持ちを楽しくする。
 「このごろ仏の導きか・・・熱く楽しい若者が儂の周りに多いいわい。静かな弟子が一人いるが、そいつも最近は、幾らかものを云うようになってきておるしっ。ハッハッハッハッ」

 唐一朗も社交辞令の一つとして笑い、そして本当に少し愉快になり笑う。生真面目に長男坊として生きてきた慎太郎は、子ども扱いされている気がして、素直に笑えず、楽しそうな二人を見比べていた。

 「はっはっはっこれは失礼。儂も熱い血のタギリをとめられない年頃があった。お若い二人、歳はいくつ。

 ・・おおっ。そうか二十歳ほどになるか。・・慎太郎殿は二十歳、して、そちらのお若いのは・・二十歳と三つか・・・・道理で・・豊かな御家の次男坊にしては、しっかりしてらっしゃりますな」

 僧は楽しくて仕方がないのかニコニコと笑み絶やさずにいる。

 「さてと・・・。」
 僧は腹の前で『パン』と手を叩き、
 「鬼に会いたいのであろう・・・会わせるのはよいが・・」
 慎太郎は身をのりだす。
 唐一朗も興奮してきたのか、身動きせずに僧を見つめている。僧は軽く頷いて、
 「どこか落ち着ける場所はないか・・・。これからの行く道は、二人を頼りに歩むほうがよさそうだ。
 しっかりとした先行きを練りたいが・・どこかありますかな」

 僧の言葉に「あるっ」 鞘に力をこめて慎太郎が
 「あります」
 力強くこたえた。

 慎太郎は僧の眼を見たまま、右手の人差し指を進むべき方角へとピシリと向けて、
 「これよりしばらく行くと道が二手に分かれます。二手といっても一方はスグに道らしき道はなくなりますが、木々の間を歩み行くと洞窟があります。
 なかなかの大きな穴です。入り口も広いし中も広く、何処までも続いている場所が・・・広すぎると云われるならば、小さな洞穴もあります。・・大きな岩をえぐりぬいたような穴・・・とりあえず、そちらに向かい行きましょう」

 
 慎太郎は『ささっ』と、一歩退き道を示すと踵をかえして歩き始めた。
 生真面目そうな性格を滲ませながら歩く慎太郎。その慎太郎に付いて歩き出すと。
 「連れの鬼達は・・」
 振り向き辺りをうかがう慎太郎。

 唐一朗も辺りを一緒に伺うが、何者の気配も感じられなかった。
 旅僧は振り向き辺りを伺い、
 「うむ、付かずに離れずに付いてくる」
 鬼達の居場所が解っているのか、解っていないのか、傍から見るからには理解できないが、男盛りの旅僧は楽しげに、いたずら盛りの若者のような笑みを浮かべて先に歩き始める。


 
 「しずかに」
 杉が身をかがめ、手を横に広げて皆を制する。

 山小屋過ぎてのしばらくの歩み、夜明け前の急な冷え込みに疲れと心地よさを同時に感じ始めていた。

 杉の意表をついた動きに宮田と田島はすかさず腰を落とし、刀を握り締めて辺りをうかがう。
 二本歯の源は
 「おっ」
 一声をだすと気配を消すようにしゃがみこみ、しずかに杉の出方を待っている。
 武は慌てて腰をひき、
 「やばい やばい」
 皆に遅れて頭を隠す。

 猟師たちはゆっくりと身を起こし、それを見て刀を握り締める者たちも身を起こす。
 「きこえる」
 田島がつぶやく。
 「たしかに・・」
 押し殺した声で宮田がうなづく、
 朝の澄んだ空気の中を、若者が叫んでいると解る声が響き聞こえる。

 「うまく聞き取れぬ・・・が、解りますか田島殿」
 「いや・・聞き取れません・・タケ・・どうだわかるか」
 山男三人は靄を伝わり聞こえる言葉に聞き入っている。

 杉と武が聞こえてきた言葉に顔をしかめていると
 「おに・・・」
 源がつぶやいた。
 宮田と田島は驚き
 「なにっ」源へと近づいてゆく、

 「これは鬼の叫びか」
 宮田が声を抑えて源に聴くが、源はしずかに、靄を伝わり聞こえてくる声に聞き入っている。

 「いや・・・ちがうがぁ」
 かわりに杉がこたえ、それを引きつぎ武が。
 「オラたちとあまり歳の違わない男の声だ・・・」
 と、つけたす。

 「じゃ・・なんだ。何が 鬼 なのだ」
 田島が眼の下のクマにしわ寄せ武に聞く。
  
 武は 「シッ」と、指立てて唇に持ってゆき、耳に神経を集中している。

 明るくなるにつれ左手に盆地が見えてくる。
 辺りは朝もやにつつまれ、火照る身体が心地よく冷やされてゆくなか、聞こえる声に意識を集める。

 ここにいる五人は聞こえる声が若者であることを認識し、それには鬼と云う言葉が、あることを確認した。

 源がつぶやく、
 「察するところでは・・誰かが・・なにか・・。あてもなく名乗りを上げているようだがぁ・・」
 「うん」
 源の言葉に杉がうなづく、

 「声がするのはどのあたり・・ここからいかほど歩いたところだ」
 田島がしずかに聞いてくる。
 「・・たぶん・・。」
 杉がそこまで云うと、
 「待ち伏せの・・あたりだ・・・。」
 源が田島へと顔を向けこたえる。

 
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28 勢いと若さは熱い

28  勢いと若さは熱い


by 聖 ★章弘(akimitsu)


 「これ、これ唐一朗」
 小声で話しかけ、
 「目的の人物かどうか解らぬぞ」
 疑問を投げてくる。
 慎太郎は落ち着きなく、左手で刀の鞘をつかみ、
 「確かめては・・・」と、先へ先へと行動を起こす唐一朗に意見する。が、唐一朗のほうは、

 「心配するな、いいからいいから。どの人物としても・・他に出来ることもない」
 「そうだが・・。」
 「とにかく歩こう」
 山へと脚をすすめてゆく。

 旅僧は慎太郎と唐一朗のコソコソ話を確認すると振り返る。先ほど自分が隠れていた辺りに目をやると、藪が左右にとゆっくり揺れている。旅僧はニヤリと笑うと、若者の背中に向かい歩いていった。

 

 辺りは薄暗く提灯がいる程だが、ふと空を見上げると月の力で数少ない星が、夜明けの力でなお少なくなっていた。
 「そろそろ夜明けか」
田島がころころと丸い身体を少し重たげに歩きつぶやく。
 
 「タケよ・・待ち伏せの場所まであといかほどのとき・・・。」
 疲れているだろうに表情は変えず宮田がたずねてくる。タケは振り返り後ろに続く杉(スギ)と源(ゲン)に目をむけた。
 スギはタケの視線に気づいてゲンへと言葉をなげる。
 「ゲンさんよぉ、あとどれぐらいがぁ」
 
 ゲンは少し顎をしゃくって、
 「ほれ、小屋ならあそこに見える。空があかるいがぁ・・みんな出ているがぁ。すれ違ってないから別の道とおったか、仕掛けた罠をみにいっとるがぁ」
 
 ゲンの言葉に「ちがうがぁ」と、タケが振り返る。
 「待ち伏せの場所のことだがぁ」
 今一度きいてみる。
 「まだがぁ・・・」

 「うーん」
 ゲンは軽く考え込み
 「いつもより歩みが遅いがぁ・・少しいそがねぇと・・」
 ゲンは宮田と田島をみて、
 「おさむらいがたぁ・・・がんばれるがぁか、・・やすむがぁ・・。」
 疲れを見て取り、気を使ってくる。

 「むりするがぁ・・後がつづかんがぁ・・なれない山道だがぁ」
 ゲンの言葉に続けてスギが、
 「なれない山歩きだがぁ少し疲れたろ、小屋で軽く眠るがいいがぁ、それから歩いても今日中にはつくがぁ」

 山男達の気遣いに、乱れた息遣いを隠しながら田島がこたえる。
 「そうだな・・少し休みましょうか宮田殿・・・」
 休むほうへと言葉をもってゆく、
 「・・そうだが、鬼どもが・・・・。」
 
 疲れのせいか、他の言葉も乱れている。
 「山に入ると・・・やっかい・・・。雨が降ってるでもなし・・こ・・このまま歩いて・・ま・・待ち伏せの場所で・・休みましょうか・・交替で・・。」

 宮田の言葉のうら、二人の言葉の影を読まずに、
 「じゃ、脚をはやめるがぁー」とゲンの声、
 それに続けて、
 「もうしばらく頑張るがぁー」
 スギが元気もよく声をだす。
 山男達の脚が速くなる。
 宮田と田島は足取り重く、それでも意思の強さで山男達の脚についてゆく。猟師の道は武士の足のためには造られていなかった。




 太陽が昇るがごとく、若者は熱く語る。

 「ですから私は、これからの時代は刀で世の中を納めるのではなく、組織のあり方、ものの考え方など、世の中の流れを読みつつ調整しつつ、政をすすめ、仕組みをつくり、子どもから年寄りまで学問を広めて、誰もが少なからず 政を・・・・そして・・・・」

 熱く語る言葉は力強く、見えない未来を僧に説いて聞かせる。

 熱く語る友の言葉に、もどかしそうに聞き入る唐一朗が、
 「慎太郎・・熱くなるな」
 客人に当たる僧を、無視して話す友を制する。
 「熱くなど・・」
 慎太郎はより血色をよくし、体に力を入れて唐一朗に言葉を投げる。

 「まあまあ」
 唐一朗は慎太郎をなだめて、
 「私が話す、でないと客人の方はオヌシノ夢に付き合いきれぬぞ」
 唐一朗の言葉に
 「うむ・・・。」
 気まずそうに従う慎太郎。

 慎太郎はひとまず『失礼を』と、僧へと一礼する。それを確認してから唐一朗がしゃべりはじめる。

 「それでは僧どの本題の話です」
 唐一朗が声を低くして僧へと言葉をかける。
 「単刀直入にききますが・・あなたは鬼と一緒におられるはず、いな、鬼と言うより・・・・その・・鬼の正体は・・・」
 
 若者二人は立ち止まり僧の目を見入る。
 立ち止まり面と対じすると、僧の身体は、中々逞しくみえる。つい最近大人へとなったばかりの若者は、僧に比べるとどこか頼りなく小さくも見える。
 思いのほか大きく見える僧の身体と、何処から出るのか一種の威厳が、若者二人を飲み込んでしまう。
 
 「正体は・・・」
 唐一朗がつづける。
 「その正体は・・・鬼の正体は・・・異国の、海を越えた異国の者でしょう」

 唐一朗は、目と肝に力をいれて、僧の目を覗き込んだ。

 若者達の思いがその言葉に強く込められているのか、旅僧がその言葉を聴いた時、まさに気と言うか、空気の壁が僧の身体に押し寄せてくるのを感じていた。

 瞬間の沈黙

 「うむ」旅僧はうなづいていた。
 そして、しばらくの沈黙。

 「・・・聴くが・・。」
 若者の問いかけに答える前に、僧は頭に浮かんだ疑問を問いかけ返した。
 「そのことは・・・二人だけが思うことか・・それとも皆が知る噂か」

 表情を変えずに聞き返す僧に、若者二人は目で合図をとりあい頷きあう。
 「はい」
 慎太郎が応える。

 「ちまたでは鬼が出たと噂が走り、日増しに警戒を強めています。土地土地には幾つもの鬼の伝説も物語りもあり、・・恐れるものあり、また、退治して天下に我が名をと血気盛んな者もおります」
 慎太郎は一呼吸、二呼吸とおき、

 「しかし、世を広く知り手広く商いなどをしている唐一朗の家柄などは知識も見聞も広く、一部ではありますが異国の船が難破し、生き残りの船乗りが身を隠しているのだろうと噂しております。
 ・・・我らが武骨な家柄はただ捕らえることばかりですが、商いの者達は
手を貸して、新しい南蛮との交易を考えているほどです」

 慎太郎は目に力をいれ、刀を握り締め僧へと話して聞かせる。その慎太郎の話が三呼吸ほど途切れたのを確認して、唐一朗が言葉を続ける。

 「私どもは・・・長崎とも取引があり、幼き頃は見聞を広めるために父に連れられ・・出向いたことも・・・。
 幼き頃にみた異国の者達は・・・噂に聞く鬼にそっくりだと・・子ども心に思っておりました」

 唐一朗は少しの緊張をみせ僧へと話をする。
   
 


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