小説★月の道

27 うんっ。行動あるのみ

 27 うんっ 行動あるのみ



                                          by 聖 ★章弘(akimitsu)



 ボウは弟子のほうへと顔を向け、 
 「お弟子さんは見たことがあるかい」と、たずねて空へと目を向ける。

 「風じゃなくて星かな・・死んだ人としゃべることが出来る人がいると聴いたことがあるから・・星と話せる人がいるかもしれないや・・・旅僧さんは位が高いらしいから話したことがあるのかな」

 旅僧に目を向けてみるが、なにやら考え込んで地面を見つめている。再び明け方の空に負けじと輝く星に目をやる。
 「風が耳打ちするのかな・・・。」
 ボウは星から顔をそらすと
 「しかし・・待ち伏せならば・・何処を歩けばいいのだろう」
 ボウは弟子と鬼へと視線を走らせる。交互に顔を見比べても、どちらも何も云わない。

 「・・・やっぱり叫んでいる人たちに頼んで 道案内してもらわないと、風がここにいることをしゃべり始めてしまうかも・・。
 ・・・・無駄なおしゃべりをする風に見つかる前に・・・道案内するかもしれない噂が千里を走る前に・・・早くしなきゃいけない」

 ボウのしゃべりの後に旅僧が顔をあげ、
 「なるほど」
 弟子と二人で顎をさすりうなづいている。
 ボウもとりあえず頷き、鬼は頬杖着いて眠っていた。


 旅僧は頭の中で思いを描いてみる。

 ここをでて歩いてゆくと道らしき道には役人が関所をひらき、道行くものを取り調べている。
 「儂らだけなら・・坊主とそのお供・・・何処から見てもな・・。」

 旅僧は鬼の足先から頭の先まで腕組みのままゆっくりと眺めてみる。そして立ち上がり、獣道より叫び伝えてきた若者達の姿を、藪の隙間から探してみた。
 そこにはすでに姿がなく、獣道を歩き姿を消したようすだ。

 旅僧は青く変わりつつある空をしばらくの間みつめ、そして不意にしゃがみこみ
 「よしっ、行動あるのみだっ」
 鬼と弟子、そしてボウへと視線を走らせ、今一度一人でうなづき、
 「鬼よ・・よいな」
 鬼へと確認を取ると言うより、おのれに言い聞かせるようにうなづくと、スクッと立ち上がり。

 「オーイッ 獣道行く若者よっ 儂は旅の坊主じゃっ」
 突然山に向かい叫び、歩き始めた。 
 静かな朝、旅僧の厚みのある声は、靄の漂う山を力強くかけてゆく。
 「話があるっ・・戻ってきてくれ」
 鬼とボウが驚き首をすくめて旅僧の背中をみつめ、弟子が咄嗟の事に、驚き、師の行動をやめさせようと立ちあがる。

 「なッ何をします」
 弟子の驚き伸ばしてくる手に、
 「よいかっ」
 旅僧がふりむき、
 「儂が話をする・・そのあいだ隠れておれ・・・そして・・距離をとり隠れて後をつけてくるのだ・・」
 小声で言い聞かせる。
 弟子は返事も出来ずに師を見つめるだけだった。
 「はやくしゃがめっ」
 旅僧はそう云うと山に向かい歩き始めていた。


 
 やまからガサガサと駆けて来る。
 ばたばたと聞こえる足音が近づくと突然、若者達が姿をあらわした。
 若者達は息を切らしながらも、あらわれた途端、笑顔をみせ、
 「よびましたかっ」
 藪の中をゆっくり歩き近づく僧へと声をかける。

 慎太郎も唐一朗も、あきらめかけて歩いている時だった。その時捜し求めている相手からのいきなりの叫び声、返事なき相手だろうとの思える相手からの、静寂を破る叫び声。
 二人の熱い血は、あっという間にたぎり始めた。

 僧は藪を掻き分けながら
 「呼ばれたのはそちらでしょう」
 笑顔でかえしながら若者達へと近づいてゆく。

 「おおっ、そうでした」
 慎太郎が慌てて笑みを見せながらこたえる。
 「探しているのは私達でした」
 唐一朗がつづける。
 若者二人は近づく僧へ
 『ゆるりと』『足元に気をつけて』
 声をかける。

 「叫び声の主はあなた達か」
 藪を掻き分け、僧がたずねる。
 「いかにもっ」
 唐一朗がこたえる。

 「先ほどの叫び声からすると・・話の内容からすると・・・。ここで朝をむかえた者は、そなた達と私か・・ならば話は私にあるのでしょう」
 旅僧は少しばかり回りくどい言い回しで若者へと言葉を投げる。

 「いかにもっ、その通りだと思われます・・・。私は唐一朗、先ほど叫んでいた者です」
 「おおっそうですか・・・しばし・・そこでお待ちを・・こう藪がすごいと・・なかなか・・・。」
 「ゆるりと・・ゆるりと気をつけて」
 慎太郎が緊張した面持ちで言葉をかける。

 藪を漕ぎ漕ぎちかづく僧を、若者二人はしげしげと観察する。目の前に近づき『お待たせを』と頭を下げる僧の頭の先からつま先まで、興味が尽きぬと、失礼を承知で眺め回している。

 そんな中、開口一番口を開けたのは唐一朗
 「失礼ですが、連れの方が他にもいると思いますが」
 聴いてくる。
 旅僧は ニヤリ と笑い、
 「たしかに、私の背中に見える藪のどこかで連れが幾人かいますが・・。藪にいる者どもを紹介する前に、叫び伝えていたことについて詳しく聞かせ願うが・・。」
 『・・・・・』『・・・・・』

 慎太郎と唐一朗は目で確認しあうと、
 「この場所がよろしいでしょうか、それとも別の場所で」
 慎太郎がたずねて、
 「それとも」
 唐一朗が僧の計らいを見透かして、
 「道は険しいが、誰といって会わずに歩ける道を行きながらの話でも・・・先はお急ぎの事でもありましょうし・・・。」
 と、すすめてくる。

 なかなか頭の切れる唐一朗の言葉に
 「歩きながら」旅僧は応えていた。

 「それでは」唐一朗がうながし、
 「慎太郎、話をしながら歩くとしよう」唐一朗は先に歩き出す。
 慎太郎はあわてて唐一朗にちかづき、
  

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  26  (2) 時には思い切りが 飛び込め!

26  ときには思い切りが・・飛び込め!


2006. by 聖 ★章弘(akimitsu)


 「私達はそこで休んでいる。私達の話を聴いてくれるならば・・そこにおこしいただきたい・・。私達は敵ではない。 この辺りの山を越えて海に出る道は、すべてに関所があり、腰に刀を携えたものが、怪しいものはすべて手荷物まで調べている。
 海に抜けたいのなら私達と共に抜ける道をゆくのが一番良い策・・。
 行けばわかりまする。・・後で探しても、その時私達は居ないかも・・手遅れになるかも・・どうか洞窟へと来ていただきたい。
 我らが云うこと・・関所でわかる。一緒に歩み進めばわかる。我らが示す道は我らと土民のみの道。 鬼の味方で歩く変わり者は我らのみ・・・・。」

 ・・・・・・・。

 辺りは静かだった。
 小鳥達の朝のさえずりも、山鳩の朝の時告げも、唐一朗の言葉に驚き木々の陰に姿を隠している。
 しばらく物音でも聞こえてこないかと、耳を澄ましていたが何も聞こえてこなかった。

 「聞えているのか・・」
 慎太郎が不安そうに辺りを見回している。
 「なに・・・聞いていても・・ここに居なくても・・他に方法は無い。後は静かに待とう」

 唐一朗は『ふぁー』と大きく伸びをして踵をかえす。
 「さあ、洞窟で一眠りしよう」
 
 自由気ままな次男坊の色をみせ、すたすたと山道を歩いてゆく。

 のんびりと歩く唐一朗の背中を眺めつつ、
 『これでよいのか・・』と、悩みと共に歩き始める慎太郎。
 真面目な性格と武家の長男として育ったその身は、武家の堅苦しい色を見せながら周りを確かめ歩き始める。

 難しい性格からか、慎太郎はどこかで誰かが、クスクスと笑っている声が聞えてくる気がしてならなかった。



 「うっ」
 皆が固まり、反射的に身をしずめる。

 若者の大きな声がいきなり聞えてくる。その声は思いをすべて乗せ力の限り叫んでいる。
 叫ぶ声に
 「ば・・ばれているのですか・・」
 弟子が旅僧に向き、不安の声を上げる。
 旅僧は静かにうなづき、
 「うむ・・・今は・・静かにしていろ・・」

 唇に人差し指をあて弟子に顔を向ける。
 今は静かに叫びに耳を傾けるようだ。

 叫ぶ若者の言葉を聴きながらしばらく息を潜める。言葉の解らぬ鬼も静かにうつむき雰囲気を探っていた。

 若者が伝えたい言葉を叫び終わると静けさが訪れた。いつの間にか円く車座に皆が座り なにやら考え込み始めていた。

 腕組み胡坐をかく旅僧と弟子、胡坐をかき膝に肘のせ頬杖つく鬼、ボウは膝を抱え込み、難しい顔で座り込む大人たちを退屈そうに眺めていた。

 ふと、旅僧が顔をあげる。鬼の顔を静かに見つめている。
 それに気づいたボウが鬼へと目をむける。
 鬼は眉間にしわ寄せ『なに』と二人を見つめ返す。
 弟子は静かに下を向き ぶつぶつ なにやらツブヤキ考え込んでいる。

 「鬼も無精ひげがはえるのか・・。」
 鬼の赤くひかる髭を見ながら旅僧は自前の髭をさする。
 そのつぶやきに弟子は顔を上げ、
 「髭の心配どころではありませんよ・・どうします」
 
 のん気に髭の心配をする旅僧に意見する。それでも旅僧は髭をゆっくりさすりながら
 「うむ」うなづき
 「みよっ 鬼の髭は朱色が混ざりなかなか良いぞ」
 にやにや 鬼の髭に見入っている。

 旅僧の視線と弟子の視線、おまけにボウの視線も髭に集まる。鬼も自分の髭に注目されていることに気づき、叫び聞えていた声と自分の髭の関係を不思議そうに考えていた。

 「オイラは何色の毛が生えるのかな・・」
 ボウが鬼の髭を見ながら自分の顎を触る。鬼は何事だろうと鬼の言葉でボウになにやら聴いてくる。
 ボウは愛想笑いをかえして、
 「やはり黒い髭かな・・」と弟子の顎へと視線をむける。
 「お弟子さんはあまり生えていないや」
 
 弟子の顎見てクスリとボウが笑う。
 弟子も自分の顎に手をあて、
 「手間がかからなくてよいぞ」と笑う。

 ボウは産毛もまばらな自分の顎をさすりながら、片手で鬼の顎に手をやり、指先で鬼の髭を引っ張り始める。
 鬼も自分の顎を突き出し、ボウが引っ張りやすいような格好をし、鬼も大きな手でボウの顎を優しくさすっていた。

 皆がそれを見てクスクスと声を殺して笑い出す。張り詰めていた緊張が徐々に緩み、笑みが皆を包んでゆく。

 旅僧が笑顔のまま、低い厚みのある声で、
 「ボウよ」声をかける。
 「はい」
 厚みのある声におふざけは終わりと感じたボウは、鬼の髭から手を離し
 「何でしょう」
 返事と共に姿勢をただした。

 「あの若者達が叫び知らせてきた言葉・・・どう思う」
 ボウはしばらく自分の顎をさすりながら考えていると、
 「罠でしょうか」と、弟子が身を乗り出してくる
 「そう思うか」
 旅僧は弟子に顔をむけ聞き返す。
 「信じるには・・どうかと・・。用心に越したことはないと・・。」
 自信無げに応える。
 
 「どうだボウよ」
 旅僧はボウに顔をもどし返事を催促してみた。ボウは顎をさすりながら、空にとどまる明けの明星を見つめて、
 「・・・やっぱりすごいなぁー。人の噂は一夜で千里走るというけど・・すごいなぁー・・・追っ手と待ち伏せの関所か・・・。」

 ボウは鬼とであって二度の夜のあいだに、見たことも無い海の辺りまで鬼の話が伝わっているのが不思議でならなかった。
 感心することしばらく、

 「噂はどうやってはしるのだろう。
 かぜにのるのかなぁー・・・風に乗って走るのかな・・風の噂というしなぁー・・・でも、オイラは風とは話したことが無いしな・・噂を運んでいる風をみたこともないや・・・。」
 


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25 時には思い切るがいい

 25 ときには思い切りがいる。



                                 by 聖 ★章弘(akimitsu)

 

 「それだっ」
 唐一朗が慎太郎の刀を指差し、
 「自分の左手を見て見るがいい、刀の鞘を握り締めているだろう」
 慎太郎は自分の左手をみて、
 「それがどうした。これは・・儂の癖だ」

 唐一朗は真剣な顔になり、
 「それが駄目だと云うのだ。儂はそれを癖だと知っているが、知らぬ奴だと殺気を感じて構えてしまうぞ」
 「・・・・・。」

 静まり、唐一朗を見つめる慎太郎。
 「よいか慎太郎」

 唐一朗は静かにその場にしゃがみこみ、
 「昨夜、確かにここで人の話し声をきいた」
 慎太郎もしゃがみ込みながら、
 「ああ・・確かに・・あちらの藪の中・・辺りだ」

 慎太郎は少し身を起こし、離れた場所の藪を指差した。
 指差す慎太郎へ、

 「そうだ。奇妙な話し声だ。大人の声に子どもの声・・聞き取った話の内容だとこの辺りで一晩過ごしているはず・・。
 夜中だったから・・まだ、この辺りにいる・・眠っているはずだ」
 
 慎太郎は静かに『うむ』と、うなづく。
 「儂らは、この獣道で交互に眠りについた。何も通らなかったし静かな夜だった」
 慎太郎はうなづき、
 「ああっ、何も通らなかったし、獣も姿を見せず静かな夜だった」
 「うむ・・・だからまだ・・。」

 唐一朗は立ち上がり藪を指差し、
 「あそこにいる」
 静かに力をこめてつぶやく。


 「我らが考えが的を射ているなら、昨夜の話し声にも鬼と云う言葉が聞こえていた。・・鬼もあそこに・・。
 ・・その正体も我らが考えに間違いは無い・・うかつに姿を見られると身を隠されてしまうかもしれん。
 ここはひとつ儂らの存在を知らせて・・しかも我らが鬼に対して敵意も無く・・逆に交友を持ちたい程だと・・気持ちを示したがよい」

 
 云い終わると再び唐一朗はしゃがみ込み、

 「気持ちをしめそう」
 「・・・どうしろと・・。」
 「・・まだ・・・よく解らんが・・・」
 「・・・。」

 慎太郎は言葉も無く唐一朗を見つめている。

 「しかし」
 唐一朗がつづける。

 「鬼の正体が我らが考え通りなら、・・慎太郎・・・お前の夢がかなうかも・・あそこで」
 唐一朗は藪を指差し、
 「あそこで・・あの藪で・・儂らの話を聴いているかもしれん。我らの思う鬼の正体を聞こえるように叫び・・お前の気持ちを素直に話してはどうか・・。」

 唐一朗の思い切った言葉に、慎太郎は慌てるだけだった。
 「・・・そんな・・。」
 黙りこむ慎一郎に、
 「で、なかったら・・ここで待ち伏せして飛び出し、話を聴いてもらうか・・相手は驚き争いになるかも知れぬぞ・・。」
 「・・・・。」
 「・・・・。」
 二人はしばらく言葉がなかった。

 「こうしよう」
 慎太郎が口火をきる。

 この辺りで待ち伏せして見つけたら後をついてゆき、話をする機会をまとう・・。」
 その慎太郎の意見に
 「だから駄目なんだ」と、唐一朗が首を横に振る。
 「駄目とは何だ駄目とは」
 慎太郎はムキになり唐一朗へと講義する。そんな慎太郎に唐一朗は、肩へと手をかけて、
 
 「慎太郎・・お前は考えすぎだ。そんな気の長いことでどうする・・・。これを逃したらいつ機会が訪れると思っている。
 何度もないぞ・・・今しかないぞ・・勝負は早いが良い、早いが・・。」
 「しかし・・・。あそこの藪にいるのかどうなのか・・はっきりと解らぬぞ・・。」 
 慎太郎の言葉に唐一朗はうなづき、
 
 「なおさらだ・・。いなければそれまで、居たら何か云うてくるさ・・。隠れたままなら儂らも引き上げて、歩くであろう場所に静かに待っていよう」
 そこまで云うと唐一朗は慎太郎の肩から手をはなし、勢いよく立ち上がり『ゴホン』と咳払いをして、

 「私は」大きな声で叫ぶと息を吸い込み、
 「私の名前は唐一朗っ。この辺りから海まで土地を持ち、山では材木山菜、肥えた土地では米、海では漁を・・人をたくさん使い商いをしている家の次男坊。そして、もう一人緊張して小さくなっているのはっ」
 「ちいさくないぞっ」
  
 唐一朗の名乗りに慌てて立ち上がる慎太郎。
 唐一朗は構わず名乗り続ける。
 
 「武家の長男でわたしの幼なじみの慎太郎。鬼の噂を聞き、もしやと思うところがあり・・・・ぜひとも会いたくて探しにまいりました。
 ・・・心配は要りません。私どもは二人・・・・昨夜あなた方の話す声も聴いております・・・。どうか・・姿を見せてもらいたい・・。そして、少しばかり私達の話も聴いていただきたい・・・。」

 ・・・・・・・・・。

 辺りは静まり返っている。
 東の空は太陽こそ見えないが、明るくなっている。
 太陽が山を越えて姿を現すのは今しばらくだろう。

 「・・寝ているのか・・」
 慎太郎が静かにつぶやく。
 「・・・あれだけのおおごえ・・隠れているのだ」
 ・・・・しずかだった。

 「少し距離があるから聞こえないのか・・・味方であることを示そう」
 唐一朗がつぶやく。
 「どうやって」
 慎太郎が唐一朗の横顔を、チラリとみて小声で尋ねる。
 「・・うむ・・・。」
 しばらく考え込んだ唐一朗は、両手を口元にあて腹に力をこめる。

 「わたくしたちはっ」
 いきなりの大声。
 慎太郎は驚き肩をすくめる。
 唐一朗はお構いなしに、
 「今からこの先に歩いてゆくっ ・・しばらく歩くと道は二手に分かれ・・・右に行くと洞窟が・・」

 懇親の叫びが静かな朝を走り抜けてゆく。


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24 ありかただ。在りかた

 24 在りかただ。あり方を考えろ

by 聖 ★章弘(akimitsu)

  「うむ・・・」
 旅僧は静かに自分の体に意識を向ける。
 「・・・かまれた様子はないな・・」
 旅僧はで弟子とボウ、そして鬼を見回し寝息をたしかめて、
 「歩くぞ、さあおきろ、おきろよ子ども」

 まず弟子が飛び起きた。普段は師よりも先に起き、身の回りの世話をしている身。いつもの癖もあり寝過ごしたかと飛び起きた。

 「あっ」
 驚きと共に昨夜の事を思い出す。
 つづいて鬼がのん気に伸びをしながら起き上がる。みなの気配にボウももぞもぞと起き上がり辺りを見回す。
 弟子が見張りを代わらずに寝込んでいたのを詫びている最中だった。
 「わっははは」
 師は軽くわらい、
 「儂も寝ていた。気にせずによい」
 とうなづいている。
 「それよりも早くここを出るとしよう。さあ、荷を持て」

 弟子は慌てて荷物を担ぎ、担ぎ終わると師を手伝う。
 その横では鬼が立ち上がり
 「あう」
 息を飲み込み、急にしゃがみこむ。
 「なんだ」
 皆がびっくりとして慌てて座り込む
 「どうした」
 旅僧が鬼へと小声で言葉をかける。
 鬼は旅僧へと、聴きなれた訛りの意味不明の言葉をしゃべりだす。
 
 「言葉では解らん」
 旅僧は自らの目で確かめようと立ち上がりかけると、
 「なっ」
 鬼の大きな手が旅僧の首元をつかみ地面に引き倒す。
 旅僧は鬼の力に任せて地面に伏せてしまう。その光景に弟子は驚き、鬼は気でも触れたかと、師を助けようと鬼の腕をつかみ一緒に倒れこむ。

 「なっむ」
 声をだそうとする二人の坊主の口元を鬼のデカイ手がふさいでくる。鬼は慌てて何かを二人へ伝えようと小声でしゃべるが、意味不明の言葉にどうしたものかと悩んでいると、
 「あっ」
 ボウの声が聞こえてくる。次の瞬間ボウも慌てて座り込む。

 「いるいる」
 小声でうったえる。
 「しずかに静かに」
 ボウがおしころした声で云うと、旅僧も弟子も、もがくのをやめてゆっくりと身体をひねり、鬼の手をどけてボウへと向き直る。

 何かから隠れるように身を鎮めているボウを見て旅僧と弟子もとりあえず静かに身を鎮めた。

 『なるほど』
 静かに身を鎮めていると、ぼそぼそと話し声が聞こえる。
 旅僧は静かにゆっくりと立ち上がってみた。背丈ほどの藪の上にゆっくりと背伸びをし、頭を出して伺い見る。

 山が見える。

 盆地の終わりは近い、そのなか意識をあたりに走らせると、
 「はっ」人影
 そう思い頭を少し下げて山のほうに頭を向ける。
 人影、そして話し声。

 藪から頭と目玉を出して覗くその右横に、弟子がゆっくりと生えるように立ち上がってきた。弟子のほうにチラリと目をやると、鼻の下を伸ばすようにして山へと視線をむけている。
 旅僧も山へと視線を戻すと、今度は左横に気配を感じる。ふと視線をむけると、鬼が同じように鼻の下を伸ばし山へと視線をむけていた。

 旅僧と弟子と鬼とで、目玉から上を藪からだして覗いていると、旅僧と鬼のあいだに、もう一つ頭が生えてきた。

 ボウが鬼の背中を這い上がり、一緒に山へと視線をむける。
 
 本の夜明け前、山のほうに見えるのは人の影だった。

 ボウはずり落ちるように鬼の背中から消え、
 「しゃがまなきゃ見つかってしまいますよ」
 小さな声で、皆の袖や足元を引っ張り
 「はやく」と、せかす。
 みんなでしゃがみこみ、息を殺して山へと気をむけ気配をつかもうとしていた。
 しゃがんだ皆の耳にはかすかな話し声が聞こえてきていた。



 刀の大小を携えた二十歳ほどの若者が、辺りをキョロキョロと見回している。そこから少し離れた場所では育ちのよさそうな若者が、裕福さをにじませた身なりで遠くを見回している。

 一人は武家の長男、一人は金持ちの商人の次男坊あたりだろう。その次男坊が
 
 「どうだ慎太郎・・見えるか」
 大声で、刀を差した若者へと声をかける。
 「しっ 声がでかいぞ」
 刀を差した若者は、刀の鍔に手をかけ、
 「唐一朗、自由気ままな金持ちの次男坊の癖はなおせ、近くにいたら儂らのことが知れてしまうぞ。・・慎重にならなくては・・。」

 唐一朗と呼ばれる若者はニヤリと笑い、
 「そういう慎太郎こそ、いま大きな声で叫んでいるぞ」
 くすくすと笑い、ゆっくりと慎太郎と呼ばれる若者に近づいてゆく
 「い・・いいから・・こちらに来い」
 慎太郎は手招きを入れて唐一朗を呼び寄せる。
 
 「慎太郎はそれが駄目だ」
 近づくなり唐一朗は軽い笑みをみせ、慎太郎に説教を始める。
 「何がだめだ」
 慎太郎はムッとして言い返す。
 「唐一朗は考えが浅いのだ」
 唐一朗は軽く首を左右に振り、
 
 「いかにも武家の跡取りのような難い頭は捨てたがよい・・。刀を差してコソコソとしていては、相手も警戒するぞ」

 「・・コソコソなど・・じゃ・・どうしろと云うのだ」
 慎太郎はイライラとした気持ちを隠すように、刀の鞘を握り締めている。





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