23 まぁ・・自慢だがぁー
by 聖 ★章弘(akimitsu)
近づくタケたちを驚きの声で迎えていると、中から別の男達がスギの後ろに立ち外を覗き見ている。
やはりこんな山奥で腰に刀の大小を持った者がかなり珍しいのだろう。人に会うたびに侍二人は珍しがられている。
田島が思うには
「なるほど、こんな山の中で武士を見るのは戦のときだけか」
と、思える。
それを裏付けるように、
「なんだ・・・また戦か」と、炭焼きの村と同じ言葉が聞こえてくる。
「とにかく中へ」と、三人は促され小屋の中へと入ると、スギと中年の男二人、そして三人を仕切っている親方らしき、逞しい初老の男が一人。
四人だった。
「こんなに暗くなってどうした・・・。侍にでもなるがぁか」
スギが楽しそうにタケをからかい始める。
「おとなしく炭でも焼いていたがいいがぁ」
「はははっ 。オラも侍には向いてないのは解るがぁ。そうじゃなくてな・・・じつはよー・・」
タケが真剣な顔でスギのほうへと顔を近づけてゆく。
「実はな・・鬼がでたがぁ」
皆に聞こえるようにポツリとつぶやいた。
猟師小屋の中では皆が動きを止めてタケのほうへと視線をむける。少しの沈黙があったあと、スギがニヤリとして、
「オラは今日熊とばったり会ったがぁ、まぁ運よく熊のほうが驚いて逃げていったがぁ。少し早く気づけばオラが仕留めてやったがぁ」
スギの言葉で、小屋の中は軽い笑いがおきる。
「おいおい」
一人の男が
「ほら吹き合戦はいいから、侍がたに座ってもらえ」
笑いながら云う。
「なにっ」
タケもスギも同時に言葉を吐き、慌ててスギが自分の男ぶりを主張する。
「何云ってるがぁでぇ。オラも十八、十九の歳越して二十歳になるがぁ。熊の一頭仕留めて見せるがぁ」
スギが云い終わるや否や
「オラの話も本当らしいがぁ」
タケが主張する。
若い血がたぎり始めたのがうっとうしいのか、静かに座っていた初老の親方が、
「お前達が アオイのは解ったから座ってもらえ」
厚みのある声と、厚みのある頑丈そうな顎で合図する。
スギの方は親方に頭が上がらないのか『ハアー』と、気の抜けた返事をして、侍達に『どうぞ』と、座るようにすすめる。
「さぁ座るがぁ」
タケが土間の丸太の位置を変え、そこに座るようにと宮田と田島に勧めた。
「かたじけない」二人が座ると、
「弁当広げるがぁ・・朝まで歩くとなると体力がいるがぁ・・なれない山歩きだがぁ、いくら鍛えたお侍でも、いつもと勝手が違うがぁ疲れるがぁ」
弁当を広げて食べ始めるタケを横目に、
「頼みたいことがある。・・聞いていただきたいが」
宮田が立ち上がる。
猟師達が宮田へと顔を向ける。
親方だけは下を向いたまま道具の手入れをしていた。
肝がすわっているのか、田舎者なのか、武士が立ち上がり頼みごとをしているのに、姿勢を正そうとする者は一人もいなかった。
「なんだぁー」
中年の猟師が
「食い物なら分けてやるがぁ」
空気の漏れるような声で、
「気にするなぁ」と、歯の抜けた笑顔を見せる。
口の中には茶色い歯が二本しか見えなかった。
山男達 相手が誰であろうと媚を売る気は無いようだ。いたって仲間に話しかけるように声をかけてくる。
「酒もあるがぁ呑むがぁー」
スギも臆したところも見せずすすめてくる。
そんな皆にタケが、
「違うがぁ・・とにかく聞いてくれるがぁ。本当に鬼が出たと侍方が云うとるがぁ。
こちらも口の中で漬物をこりこりといわせている。
「お侍方は度胸のある者を探しているがぁ。オラたちは炭を焼くぐらいで役に立たないがぁ・・・猟師なら度胸もあるがぁ・・探しに来たがぁ」
宮田と田島が今までの事を話して聞かせるあいだ、猟師たちはこれといって疑う分けでもなく、冷やかすわけでもなく聞いている。
「そんな話ならよいがぁ。・・親方達は一度帰るが、オラとスギが案内ぐらいならするが、じゃ、弁当食って脚が休んだらすぐに行くがぁ。
なになに、一晩あれば二山ぐらいすぐこせるがぁ。昼過ぎには待ち伏せの準備もできるがぁ」
歯の抜けた男が名乗りを上げて親方のほうへと目を向けてしゃべる。親方も言葉少なく
「気ぃつけていくがぁ」
と一言。
中年の歯抜け男が
「オラは源(げん)と云うが、この辺りには詳しいし、このスギよりもうんと腕がたつがぁ」
ゲンの言葉に
「オラもまぁまぁだがぁ」
ニヤついてスギも主張する。
ゲンはスギの言葉を無視して、
「運がよければ、山を越えたあたりで他の男たちとも会うと思うがぁ、そうなれば、まさに鬼に金棒だがぁ。ガッハハハ」
馬鹿なのか本当に肝が据わっているのか、これといって疑うでもなく、案内と手助けをかってでる。
宮田と田島もすんなり話が決まったことで安心し、食欲がわいてきた。
静かに食事をしていると興奮してきたのか、
「いや、タケが鬼と云うたときには信じがたかったがぁ・・お侍が追っているのなら妖怪変化のたぐいかもしれんがぁ」
スギが言葉を張り始め
「鬼退治だがぁー」と、張り切りだす。
タケたちの食事を無視して足元をかため、
「腕がなるがぁっ」意気揚々とはしゃいでいた。
13
「はっ」
目が覚めると東の空が白みかけている。
tgjxn958@yahoo.co.jp

by 聖 ★章弘(akimitsu)
近づくタケたちを驚きの声で迎えていると、中から別の男達がスギの後ろに立ち外を覗き見ている。
やはりこんな山奥で腰に刀の大小を持った者がかなり珍しいのだろう。人に会うたびに侍二人は珍しがられている。
田島が思うには
「なるほど、こんな山の中で武士を見るのは戦のときだけか」
と、思える。
それを裏付けるように、
「なんだ・・・また戦か」と、炭焼きの村と同じ言葉が聞こえてくる。
「とにかく中へ」と、三人は促され小屋の中へと入ると、スギと中年の男二人、そして三人を仕切っている親方らしき、逞しい初老の男が一人。
四人だった。
「こんなに暗くなってどうした・・・。侍にでもなるがぁか」
スギが楽しそうにタケをからかい始める。
「おとなしく炭でも焼いていたがいいがぁ」
「はははっ 。オラも侍には向いてないのは解るがぁ。そうじゃなくてな・・・じつはよー・・」
タケが真剣な顔でスギのほうへと顔を近づけてゆく。
「実はな・・鬼がでたがぁ」
皆に聞こえるようにポツリとつぶやいた。
猟師小屋の中では皆が動きを止めてタケのほうへと視線をむける。少しの沈黙があったあと、スギがニヤリとして、
「オラは今日熊とばったり会ったがぁ、まぁ運よく熊のほうが驚いて逃げていったがぁ。少し早く気づけばオラが仕留めてやったがぁ」
スギの言葉で、小屋の中は軽い笑いがおきる。
「おいおい」
一人の男が
「ほら吹き合戦はいいから、侍がたに座ってもらえ」
笑いながら云う。
「なにっ」
タケもスギも同時に言葉を吐き、慌ててスギが自分の男ぶりを主張する。
「何云ってるがぁでぇ。オラも十八、十九の歳越して二十歳になるがぁ。熊の一頭仕留めて見せるがぁ」
スギが云い終わるや否や
「オラの話も本当らしいがぁ」
タケが主張する。
若い血がたぎり始めたのがうっとうしいのか、静かに座っていた初老の親方が、
「お前達が アオイのは解ったから座ってもらえ」
厚みのある声と、厚みのある頑丈そうな顎で合図する。
スギの方は親方に頭が上がらないのか『ハアー』と、気の抜けた返事をして、侍達に『どうぞ』と、座るようにすすめる。
「さぁ座るがぁ」
タケが土間の丸太の位置を変え、そこに座るようにと宮田と田島に勧めた。
「かたじけない」二人が座ると、
「弁当広げるがぁ・・朝まで歩くとなると体力がいるがぁ・・なれない山歩きだがぁ、いくら鍛えたお侍でも、いつもと勝手が違うがぁ疲れるがぁ」
弁当を広げて食べ始めるタケを横目に、
「頼みたいことがある。・・聞いていただきたいが」
宮田が立ち上がる。
猟師達が宮田へと顔を向ける。
親方だけは下を向いたまま道具の手入れをしていた。
肝がすわっているのか、田舎者なのか、武士が立ち上がり頼みごとをしているのに、姿勢を正そうとする者は一人もいなかった。
「なんだぁー」
中年の猟師が
「食い物なら分けてやるがぁ」
空気の漏れるような声で、
「気にするなぁ」と、歯の抜けた笑顔を見せる。
口の中には茶色い歯が二本しか見えなかった。
山男達 相手が誰であろうと媚を売る気は無いようだ。いたって仲間に話しかけるように声をかけてくる。
「酒もあるがぁ呑むがぁー」
スギも臆したところも見せずすすめてくる。
そんな皆にタケが、
「違うがぁ・・とにかく聞いてくれるがぁ。本当に鬼が出たと侍方が云うとるがぁ。
こちらも口の中で漬物をこりこりといわせている。
「お侍方は度胸のある者を探しているがぁ。オラたちは炭を焼くぐらいで役に立たないがぁ・・・猟師なら度胸もあるがぁ・・探しに来たがぁ」
宮田と田島が今までの事を話して聞かせるあいだ、猟師たちはこれといって疑う分けでもなく、冷やかすわけでもなく聞いている。
「そんな話ならよいがぁ。・・親方達は一度帰るが、オラとスギが案内ぐらいならするが、じゃ、弁当食って脚が休んだらすぐに行くがぁ。
なになに、一晩あれば二山ぐらいすぐこせるがぁ。昼過ぎには待ち伏せの準備もできるがぁ」
歯の抜けた男が名乗りを上げて親方のほうへと目を向けてしゃべる。親方も言葉少なく
「気ぃつけていくがぁ」
と一言。
中年の歯抜け男が
「オラは源(げん)と云うが、この辺りには詳しいし、このスギよりもうんと腕がたつがぁ」
ゲンの言葉に
「オラもまぁまぁだがぁ」
ニヤついてスギも主張する。
ゲンはスギの言葉を無視して、
「運がよければ、山を越えたあたりで他の男たちとも会うと思うがぁ、そうなれば、まさに鬼に金棒だがぁ。ガッハハハ」
馬鹿なのか本当に肝が据わっているのか、これといって疑うでもなく、案内と手助けをかってでる。
宮田と田島もすんなり話が決まったことで安心し、食欲がわいてきた。
静かに食事をしていると興奮してきたのか、
「いや、タケが鬼と云うたときには信じがたかったがぁ・・お侍が追っているのなら妖怪変化のたぐいかもしれんがぁ」
スギが言葉を張り始め
「鬼退治だがぁー」と、張り切りだす。
タケたちの食事を無視して足元をかため、
「腕がなるがぁっ」意気揚々とはしゃいでいた。
13
「はっ」
目が覚めると東の空が白みかけている。
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