小説★月の道

23 まぁ・・・じまんだがぁー

23 まぁ・・自慢だがぁー

                                     by 聖 ★章弘(akimitsu)
 


近づくタケたちを驚きの声で迎えていると、中から別の男達がスギの後ろに立ち外を覗き見ている。
 
 やはりこんな山奥で腰に刀の大小を持った者がかなり珍しいのだろう。人に会うたびに侍二人は珍しがられている。
 
 田島が思うには
 「なるほど、こんな山の中で武士を見るのは戦のときだけか」
 と、思える。
 それを裏付けるように、
 「なんだ・・・また戦か」と、炭焼きの村と同じ言葉が聞こえてくる。

「とにかく中へ」と、三人は促され小屋の中へと入ると、スギと中年の男二人、そして三人を仕切っている親方らしき、逞しい初老の男が一人。
 
 四人だった。

 「こんなに暗くなってどうした・・・。侍にでもなるがぁか」
 スギが楽しそうにタケをからかい始める。
 「おとなしく炭でも焼いていたがいいがぁ」
「はははっ 。オラも侍には向いてないのは解るがぁ。そうじゃなくてな・・・じつはよー・・」

 タケが真剣な顔でスギのほうへと顔を近づけてゆく。
 「実はな・・鬼がでたがぁ」
 皆に聞こえるようにポツリとつぶやいた。
  
 猟師小屋の中では皆が動きを止めてタケのほうへと視線をむける。少しの沈黙があったあと、スギがニヤリとして、
 「オラは今日熊とばったり会ったがぁ、まぁ運よく熊のほうが驚いて逃げていったがぁ。少し早く気づけばオラが仕留めてやったがぁ」
 スギの言葉で、小屋の中は軽い笑いがおきる。
 「おいおい」
 一人の男が
 「ほら吹き合戦はいいから、侍がたに座ってもらえ」
 笑いながら云う。

 「なにっ」 
 タケもスギも同時に言葉を吐き、慌ててスギが自分の男ぶりを主張する。

 「何云ってるがぁでぇ。オラも十八、十九の歳越して二十歳になるがぁ。熊の一頭仕留めて見せるがぁ」
 スギが云い終わるや否や
 「オラの話も本当らしいがぁ」
 タケが主張する。

 若い血がたぎり始めたのがうっとうしいのか、静かに座っていた初老の親方が、
 「お前達が アオイのは解ったから座ってもらえ」
 厚みのある声と、厚みのある頑丈そうな顎で合図する。

 スギの方は親方に頭が上がらないのか『ハアー』と、気の抜けた返事をして、侍達に『どうぞ』と、座るようにすすめる。

 「さぁ座るがぁ」
 タケが土間の丸太の位置を変え、そこに座るようにと宮田と田島に勧めた。
 「かたじけない」二人が座ると、
 「弁当広げるがぁ・・朝まで歩くとなると体力がいるがぁ・・なれない山歩きだがぁ、いくら鍛えたお侍でも、いつもと勝手が違うがぁ疲れるがぁ」

 弁当を広げて食べ始めるタケを横目に、
 「頼みたいことがある。・・聞いていただきたいが」
 宮田が立ち上がる。
 
 猟師達が宮田へと顔を向ける。
 親方だけは下を向いたまま道具の手入れをしていた。
 肝がすわっているのか、田舎者なのか、武士が立ち上がり頼みごとをしているのに、姿勢を正そうとする者は一人もいなかった。

 「なんだぁー」
 中年の猟師が
 「食い物なら分けてやるがぁ」
 空気の漏れるような声で、
 「気にするなぁ」と、歯の抜けた笑顔を見せる。
 口の中には茶色い歯が二本しか見えなかった。

 山男達 相手が誰であろうと媚を売る気は無いようだ。いたって仲間に話しかけるように声をかけてくる。
 「酒もあるがぁ呑むがぁー」
 スギも臆したところも見せずすすめてくる。
 そんな皆にタケが、
 「違うがぁ・・とにかく聞いてくれるがぁ。本当に鬼が出たと侍方が云うとるがぁ。
 こちらも口の中で漬物をこりこりといわせている。
 「お侍方は度胸のある者を探しているがぁ。オラたちは炭を焼くぐらいで役に立たないがぁ・・・猟師なら度胸もあるがぁ・・探しに来たがぁ」


 宮田と田島が今までの事を話して聞かせるあいだ、猟師たちはこれといって疑う分けでもなく、冷やかすわけでもなく聞いている。


 「そんな話ならよいがぁ。・・親方達は一度帰るが、オラとスギが案内ぐらいならするが、じゃ、弁当食って脚が休んだらすぐに行くがぁ。
 なになに、一晩あれば二山ぐらいすぐこせるがぁ。昼過ぎには待ち伏せの準備もできるがぁ」
 
 歯の抜けた男が名乗りを上げて親方のほうへと目を向けてしゃべる。親方も言葉少なく
 「気ぃつけていくがぁ」
 と一言。
 
 中年の歯抜け男が
 「オラは源(げん)と云うが、この辺りには詳しいし、このスギよりもうんと腕がたつがぁ」
 ゲンの言葉に
 「オラもまぁまぁだがぁ」
 ニヤついてスギも主張する。
 ゲンはスギの言葉を無視して、
 「運がよければ、山を越えたあたりで他の男たちとも会うと思うがぁ、そうなれば、まさに鬼に金棒だがぁ。ガッハハハ」

 馬鹿なのか本当に肝が据わっているのか、これといって疑うでもなく、案内と手助けをかってでる。
 宮田と田島もすんなり話が決まったことで安心し、食欲がわいてきた。

 静かに食事をしていると興奮してきたのか、
 「いや、タケが鬼と云うたときには信じがたかったがぁ・・お侍が追っているのなら妖怪変化のたぐいかもしれんがぁ」
 スギが言葉を張り始め
 「鬼退治だがぁー」と、張り切りだす。

 タケたちの食事を無視して足元をかため、
 「腕がなるがぁっ」意気揚々とはしゃいでいた。



              13



「はっ」

 目が覚めると東の空が白みかけている。




tgjxn958@yahoo.co.jp         
                            

                                 にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ

22 何事も意味があるのさ。子どもながらもね。

22   何事も意味があるのさ・・。子どもながらもね。

                            by 聖 ★章弘(akimitsu)
 

 「そういうことはスグに云え」
 弟子が言葉を吐き出す。
 その言葉を聴き
 「なにさ」ボウが頬を膨らます。
 
 「オイラが話しかけても寝たふりしていたじゃないか」
 ボウは唇を尖らせ、
 「しらねぇーやい」と、そっぽをむく。

 ボウの仕草に鬼は何事と、意味不明の言葉を口走る。

 「これはすまなかった」
 旅僧は笑顔を見せながら、
 「わっはははっ。スマナイすまない。お前がいつもおしゃべりだから、それになれて返事を忘れていた。いやいやすまんすまん」

 「なにさっ」ボウは唇を尖らせたまま、
 「オイラがただのおしゃべりだと思っていたのかい」
 ボウの言葉に弟子が
 「そうに決まっているだろう」
 当然とばかりに応える。

 「じゃ、お弟子さんがしゃべればいいじゃないか」
 「私はしゃべらん」
 「なんでさ」
 「お前みたいに口から生まれてきていない」
 「・・お弟子さん。オイラがしゃべっていたわけが解らないのかい」
 「解るぞ。お前が三人寄った女子のようにおしゃべりだからだ」

 弟子の言葉に少々腹を立てて、旅僧に顔を向ける。

 「旅僧さんもかい?」
 「うむ」 旅僧は笑顔でうなづいている。

 ボウは鬼のほうへと顔を向けた。
 鬼は何が起こったのかと彫の深い赤ら顔で眉を寄せてボウを見つめている。ボウは鬼の応援を期待できない事を確認すると、鬼から顔をそらして

 「旅僧さん・・修行のしすぎで世間知らずになったのかい・・・。お弟子さんも坊主になる前に世間を知りなよ。・・・山には熊もいるし山犬どももいるのだよ」

 幼き子にも、自分を正当化する特別な意味があった。

 師弟はボウの言葉に「ああ、なるほど」と顔を見合わせる。

 「熊はしゃべっていれば こちらには近づかないし、山犬どもは静かにしていると、オイラ達を襲ってくるじゃないか。しゃべっていればこちらに力があるように思って近づいても、なかなか襲ってこないだろう・・・」
 
 ボウは一度深く息を吸い込み。
 
 「しっかりしておくれよ。しゃべるのも疲れるんだ。オイラだって子供が背負うにしては結構な量を背負っているんだから」

 師弟は笑みを浮かべ、
 『申し訳ない』
 と、頭をたれて子供の事を感心し、鬼は何々と子どもに叱られている様子の大人二人を見つめている。

 「旅僧さんもお弟子さんも、足を踏み出す前は杖を突いて辺りを探っていたじゃないか・・・。」
 「・・・・。」
 「・・・・すまない」

 皆で辺りの藪を棒で突いたり叩いたりして、蛇と虫どもを追い払う。鬼にも意味が解るらしく、自ら辺りを棒で突きまわしている。

 「獣達には火が一番だが・・・。」

 ここは藪の中、火を焚くには山火事をおこしている様なものなので、旅僧が取り合えず起きておくことにして、山犬どもは警戒する事にした。




             12


 『 タケを案内で連れてきてよかった』

 その思いの中、いくつも分かれた獣道を、タケの後に付いてテクテクと歩く。山道は暗く、月明かりは木々に閉ざされ、タケの案内だけが頼りになっていた。

 「おおっ小屋には猟師達がいるみたいだがぁ」
 静かな山の中にタケの声が響き渡り、闇の中にチラチラと灯りが見え隠れしていた。
 「お侍がた、もうスグだ」
 『うむ』どちらの声か、静かにうなづく声が一言聞こえる。

 「小屋にはオイラがつくった炭もタラフクあるがぁ、きっと獲物も取れて小屋で休んでいるがぁ・・・良いアンバイだがぁ」

 タケの言葉のあとに『急ごう』宮田の疲れた声がせかしてくる。

 灯りは見えるが、中々近づいてこない。
 着きそうで着かない距離に、あらためてタケを連れてきて良かったと思う。
 「お侍がたぁー着きましたがぁ」
 少しばかり開けた場所に小さな小屋がある。まだ幾分の距離はあるが、タケは立ち止まり、いきなりの大声で叫びだす。

 「おーい。タケだがぁー」
 近づいてしまう前に小屋へと声をかける。
 「もう少し近づいてから声をかければ・・」
 宮田がうるさそうに顔をしかめる。

 「なーに」
 タケは鼻で笑って
 「猪と間違われると厄介だがぁ」
 タケは振り返り笑顔を見せると
 「たまにあるがぁ」と応える。

 タケは今一度小屋へと向かい
 「おおーい、タケだがぁー」
 存在を知らせる。

 小屋の戸がガタガタと開き、中で燃える火の陰と人影が覗き見えた。その人影がタケたちの気配を見つけると、

 「タケがぁー、おらだがぁ杉だ・・。どうしたがぁこんな山奥に今頃、何かあったがぁかー」
 戸口の影は、若者の声をだしている。 
 「おおっ杉やんかぁ・・スギやん一人前に少しは近づいたがぁか」
 タケが親しげに声を返す。
 「何をバカなことを云うがぁ、オラは十五歳のときから一人前の猟師だがぁ。それよりなんだがぁこんな処に・・・早く中に入るがぁ」

 スギと呼ばれる若者は
 「あとの二人はだれだがぁ」と、見慣れぬ影の正体を聞いてくる。
 「おや・・・お侍だがぁ・・。」

 目を凝らし、覗き込んでいるのが、影の動きで察しがつく。



tgjxn958@yahoo.co.jp         
                            

                                 にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ

21 気になるなぁ

 21 『気になるなぁ』


                                   by 聖 ★章弘(akimitsu)

 
 宮田と田島は『では』と 年寄りに軽く頭を下げタケの後ろをついて歩く。その後姿に『タケよ』と田島が声をかけ、
 「なんがぁ」
 タケが振り向き返事をする。
 「無理するな、この山は手入れがあるからワシらだけで歩けるぞ」
 田島が脚をとめ そう云うと
 「いや」 一声と共に宮田も脚を止め、
 「少し休んで夜通し歩くとすると案内はいたがいい。すまぬがタケよ・・頼むぞ」
 
 
 宮田の言葉にタケは『まかせとくがぁ』と返事をすると、山への道を勢いよく歩き出す。
 「田島殿 ここはタケの好意に甘えていましょう」
 田島も 夜の案内の大切さが分かるので『うむ』とうなづき タケと宮田の後をおい山に向かって歩き始めた。



「うーん・・・。駄目だ見えやせぬ。木々も少なく月明かりだが 背丈以上の藪はどうにもならんっ」
 空は明るく 足元は闇だった。
 「旅僧さんはいいよ。オイラなんかお月様も見えやしない。鬼さんだって頭が隠れているときがあるみたいだ」

 ボウは藪を掻き分けると言うより、絡まりながら歩いている。
 旅僧は『うーむ』と唸り 頭を抱え立ち止まってしまった。

 月と幾つか見える星で、行くべき道は分かるが、一里進むのにどれだけの時をかけているのか・・。そんななか、鬼も口で息をし、月を見上げて苦しそうにしている。

 弟子は弟子で小言こそ云わないが、息遣いでかなり疲れていることが伺われた。

そんな中で、唯一元気を見せるのは、ひと時たりとも静かにしない小鬼だけだった。

 「オイラは皆の尻しか見えやしない・・旅僧さん 明るくなる前には盆地を出れるかな・・。」
 何処からも返事が返ってこない。
 「・・無理そうだね」

 頭の中に浮かび上がる言葉は、そのまま口からこぼれている。他の者が何も答えなくともお構いなしだった。
 「よしっ」
 旅僧が何かを決した様に背中の荷物を下ろす。

 「ここで寝よう。草を倒して自分の寝る場所はつくればよい。そうしよう」
 旅僧は辺りの草を倒し始める。
 「ふう」弟子はやっと『休める』と 安堵の息をこぼして背中の荷物を下ろして、その場に倒れるようにして大の字になる。

 鬼もすでに寝転がっている。
 何か言葉をこぼしながら暗い空を指差している。
 ボウがその指先を追うと
 「鳥だっ」
 月明かりの中を一羽の水鳥が飛んでいた。

 「鬼さん・・翼がほしいのかい。オラも分かるよ・・・翼があればすぐに・・。」
 「寝ろ」ボウの言葉に旅僧が言葉をかぶせてくる。

 「儂もつかれた・・。寝よう・・・ボウよ・・おまえも寝ろ」
 旅僧は疲れ果てているのか、目も合わさず横になり目をとじる。
 「はい」ボウはうなづき、鬼へと目をやると、
 「 ********」目を閉じて、ゆっくりと何かをつぶやいていた。


 ボウは辺りを見回してみた。
 旅僧は綺麗に辺りの草を倒して寝ている。
 弟子と鬼は、ほとんどその場に倒れこむようにして寝ているので、体も隠れている。

 ボウは少しの不安を 言葉にしようと思い
 「旅僧さん」と 静かに声をかけてみた。
 返事がない。
 「狸寝入りかな・・。」
 その言葉でも何も反応はない。

 ボウは辺りの藪草を丁寧に倒して、我が身の落ち着く場所をつくろうと頑張った。
 辺りを見回しゆっくりと座り込み、そして今一度辺りを確認して寝転がる。
 まだ、頭に浮かんでくる不安が拭いきれないので、旅僧へと話しかけてみる。

 「旅僧さん」返事はない。
 「お弟子さん」やはり返事もなく、寝息も聞こえてこない。
 二人が狸寝入りしていることは解るが、それは言葉にださずに静かに星を眺めた。

 「お星様って・・なにかな」
 言葉をもらして静かに空を眺めていたが、ムクと起き上がり旅僧と脚だけ見える弟子のほうへと目をむけた。
 何も反応はない。
 旅僧はいつの間にかボウのほうへ背中を向けて寝ていた。
 「・・・・・。」

 頭に浮かぶ不安のせいで、ボウは寝付くことが出来なかった。空に瞬く星と月を眺めて、
 「死んだ人が星になるのかな・・・。明るい夜でも見える星は昔の偉い人がなったんだろうな・・・。
 旅僧さんは偉いと評判だから明るい夜も、天に煌めくんだろうな。
 評判といえば、人の噂は一夜で千里を走ると云うし・・。すでにオイラたちが向かう海まで鬼さんの噂は走っているのかな・・。
 人がいない場所でも噂は走るのかな・・・。」

 ボウのつぶやきに、言葉が返ってくる。
 「寝ろ」
 ボウの独り言に弟子が一言。

 「なんだおきているじゃないか、返事をしてくれてもいいのに」
 「・・・。」こんどは返事がない。
 しばらく待ったが何も返事はなかった。
 ボウは不安を言葉にだしてみることにした。

 「おいら・・・気になることがあるんだ」
 
  「  ・・・・・・・・・  」

 辺りは静かだ。
 鬼のイビキが聞こえるだけ。
 ボウはムクリと起き上がり、不安を口にする。

 「・・・マムシ・・いるんじゃないかな・・。」と つぶやいた。

 ガバッ  バッ と 辺りに布のこすれる音、草の踏みつけられる音。その音と一緒に旅僧と弟子が飛び起きた。 
 その、急な動きに鬼は驚き慌てて飛び起きて身構えている。
 飛び起きて辺りを見まわす旅僧と弟子。その緊張感に自らも緊張して辺りを右に左にと見まわす鬼。

 皆の急な動きにボウも驚いて、皆の動きに目玉をキョロキョロとさせる。

 一呼吸 二呼吸。
 鬼は身構え臨戦態勢。
 旅僧と弟子は、静かにボウを見入っている。

 「わすれておった・・・・。」
 旅僧がボウを見つめつぶやく。



  tgjxn958@yahoo.co.jp         
                            

                                 にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ





20  ワキマエル

20 ワキマエルがぁ


by 聖 ★章弘(akimitsu)



 「なるほど、生きてゆくためだろうがよく手入れされている。この辺りの者達は人間ができているようだな」
 二人の武士は山々を見回し、戦による害もなく大きく育つ逞しい緑豊かな山に見とれている。
 「なになに、ワシら他にする事がないがぁ」
 若者はふるさとの山々に目を移しつぶやく。
 
 「・・・オラは・・・こんな村でたいがぁ・・・オラは算術が好きだがぁー・・オラの爺様が読み書きできるがぁ、数を足したり引いたり・・三角四角の坪数も出すのが得意だがぁ・・・
 だから・・オラも読み書きそろばんお手のもんだがぁっ」

 若者は気持ちの整理も出来ぬまま、今思うことを、自分が可能性のある若者だと遠まわしに主張する。

 村の生活は若い血と未来の夢にとって監獄のような責め苦になっている。

 宮田と田島が黙って聞いていると若者は何かを思いつめたように黙り込み、歩きながら一点を見つめていた。
 「おっ・・お侍様っ」
 ふと振り返り、宮田と田島を交互に見つめる。
 「オラはここをでて勉学の道に進みたいがぁ、よかったら誰かを紹介してもらえまいか・・・。」

 若者は意を決し自信無げに、そして情熱的に、目に力をこめて語りかけてくる。

 宮田と田島は顔を見合わせ
 「こまったのぉー」
 田島がこぼす。
 「儂らは見ての通り武士だ・・今の時代猫も杓子も武者修行と多いが勉学は・・・しかも算術となると・・・商いのそろばんとはまた少し旗色がちがうが・・。」

 田舎の若者の夢を壊さずに言葉を選ぶ田島、それとは逆に
 「これっ青いの、身分を考えろ」
 と、口ぶり強く宮田が
 「お前にはこんなに良い山があるだろうっ。先祖が切り開いた命をやすやすと捨てるものではないぞっ、わきまえろっ」

 一喝する

 若者は自分でもそれを理解しているのか、下を向き『わきまえるが・・分かっているがぁ』と、もごもごとつぶやき歩く。

 その後姿に、
 「ワカモノ」と、田島が声をかける。
 「歳はいくつになる。つい、聞くのを忘れておった。名もなんという」
 若者は前を見たまま
 「歳は十八歳だが・・名は武・・タケというがぁ」
 「タケ・・というか・・先祖からこの山か」
 「いや・・違うがぁ」
 若者は前を見据えたまま
 「むかし昔は何処そこの殿様に仕えていたらしいが・・いつの間にかこの山で炭を焼いているがぁ・・お侍方は田舎者だと思っているだろうがぁ・・こう見えてもワシらは読み書きもしっかりしてるがぁ・・・。」
 田島は『うむ』と一人うなづき
 
 「儂は田島と云う・・・こちらは宮田殿。名乗るのを忘れていたが許してくれ」
 タケは背筋を伸ばしたままコクリとうなづく
 最初に会ったときの間延びした感は消え、今はしっかりとした若者に見える。
 
 「あそこだがぁ」
 若者は立ち止まり先を指す
 その先には一軒の家とも小屋とも着かぬところから飯炊きの煙らしきが上がって見える。

 「まだ・・・この先を曲がるとボロ家が七つ八つと見えてくる」
 テクテクと歩いてゆくと、煙の出る家へとタケが声をかける。中からは腰の曲がった年寄りが
 「なんだぁー」と出てくる。
 タケが宮田と田島を紹介すると、得意げに楽しげに鬼の話を年寄りに聞かせる。年寄りは曲がった腰を突き出すように状態を起こし、

 「なんとっ鬼かぁーっ・・それは心配だがぁのー
 この辺りの男どもは今朝から山に入っておるがぁ・・ここには女と子どもしか残っておらんが・・・肝はおなごでもすわっとるがぁ鬼が相手では・・・喰われたりせんかのぉ・・・おおおっそうじゃ」

 年寄りは小さな家から 嫁と孫を呼び出して事を話して聞かせる。
 「そんなことが・・ほんとうがぁ」
 嫁はふしんがる。
 「なんにしても皆に知らせに行くがぁ」
 年寄りが嫁をせかして近所に走らせる。
 
 その間に
 「山を案内するものを一人借りたいが」
 と、年寄りに尋ねるが、
 「男どもは皆山だがぁ」との返事。
 年寄りの横に男が一人立っているが、鼻をたらして年寄りの影からこちらを見ている。
 見慣れぬ侍をみつめている遊び盛りのこども。
 宮田と田島は子どもから目をそらして
 「それは困った」と腕を組む
 「・・儂ら二人ではなれない山道」
 と これからの道中を思案する。

それを見て、毎日の生活に刺激を求め始めていた若者が
 「よしっ」と声をはる。
 宮田と田島が驚き少しのたたらを踏むと
 「どうしたっ」とタケに顔をむける。

 「よしっお侍さんがたぁ こうするがいい オイラが案内するがぁ。鬼が出てもやくにはたたんがぁ道案内にはなる。
 なに、お侍が一緒なら鬼もこわくねぇっ。盆地から出てきそうな場所までオイラが案内するがぁ」

 炭焼きの若者は、云い終わると早速とばかりに
 「おばぁ、すまねえがぁオイラのばあ様に云うといてくれ、それと何かオイラにも弁当くれるがぁ。
 この上の猟師小屋までなら日暮れまでに着くがぁ」
 タケは年寄りにしゃべり終わると、宮田と田島に顔をむけ
 
 「しんぱいねぇ。鬼が夜歩くかどうかしらねぇがぁ、盆地の夜は山より歩けねぇ。小屋で一休みしても先回りできるがぁ」

 新たな刺激がタケの血をタギラセルのか、タケは楽しそうに考えをしゃべり続ける。
 「婆さん、はよ弁当くれ。少しでも早いがいいがぁ」

 年寄りはニコニコと笑いながら
 「これこれ、慌てても何も変わりゃせんがぁ 若いのは浅いでいかんがぁ」
 
 しばらくして年寄りが家から出てくる。
 「ほら、これもっていくがぁ」
 と 握り飯と
 「これも持って行け」
 味噌を一握りタケへと手渡す。

 「ありがてぇがぁ」 
 タケは懐にしまうと
 「いくがぁ、お侍さんがた」
 楽しそうに歩き出す
 「きいつけるがぁ」
 年寄りの声を背に受けて、振り向きもせず
 「おうっ」左手を上げて返事をする。

 

        tgjxn958@yahoo.co.jp         
                            

                                 にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ





 

19  心躍りだす

    19  心躍りだす


                                    by 聖 ★章弘(akimitsu)


 若者の少し間の抜けたしゃべりは頼りなさを感じる。
 
 「そこは どれほど歩めばよろしいか。それと少しばかり食べ物を分けていただきたい」
 右目の下に 縦に走る傷跡をさすりながら宮田がしゃべる。その言葉に若者はうなづきながら
 「この道をゆけばすぐにたどり着くぅ。・・食い物は粗末でいいなら用意するがぁ・・。チョッと待つがぁ。ババさんっ よういしてやってぐれるがぁ」

 すぐ側で 曲がった腰を伸ばして話を聴いている年寄りに若者が顔を向けると 年寄りは伸ばしていた腰を曲げて『わがった』とうなづいてうちへと軽い足取りで戻っていった。

 その年寄りの動きと ここにいる者たちのしぐさを見て 小太りの田島はふと思う。

 『もしかしてこの辺りの者達は 戦のときに武士達を支援したり 落ち武者をかばったりした経験があるのかもしれない。
 山から現れた武士に対して もの珍しそうにしながらも この落ち着いた応対は田舎者だからだけではなく 過去からの経験かもしれない』

 山奥の村 身を隠すにはもってこいの場所だろう。家捜しでもすれば落ち武者狩りから逃れた大物が まだ身を隠しているかもしれない。
 もしかすると 炭焼きや猟師として 土地の人間に身を変え どこかに火の手が上がるのをまっているのかもしれない。
 田島はそう考えながら
 「かたじけない」
 ころころと丸い身体を曲げて礼をする。
 
 「しかし 鬼を二人で追うとは肝の太いお侍だ」
 村の中年男が感心して云うと 年寄り達が感心してうなづいている。
 「いやいや」
 田島が応える。
 「二人では心細くあるので猟師たちに応援を頼みたい・・・鬼どもはこの谷を抜け向かいの山に入ったと思われる。・・案内と腕のたつ者を幾人か・・・。」
 
 そこまで云うと
 「しかしなぁ・・。ホントウに鬼などおるのかのぉ 昔話のなかだけじゃないのかぁ」
 「それは・・・どうだか・・。鬼にしろ何にしろその類のものを見たものもおるし・・・。儂らも先ほど不気味なものが大きな岩の上にいるのをみた・・。何かがいるのは確かだ」
 田島がそこまで云うと別の年寄りが
 「しかし ここは通ってないんじゃないのかのぉぅー。犬どもはお侍達が山から下りてきたときぐらいしか吠えとらんがぁー」
 「・・なに・・・。」

 宮田と田島が顔を見合わせる。
 「盆地のほうを行ったのと違うかぁー。鬼も犬はきらいじゃろう。熊でも犬がいたら近づかないがぁ。・・きっと盆地だぁー」
 年寄りの この言葉に
 「田島殿急ぎましょう」
 宮田がそわそわと短気を隠せずにいる。
 田島は慌てるでもなく『うむ』とうなづいている。
 「それでは」と 宮田が早々に頭をさげると
 「まあまあ」と 最初の若者が声をかけてくる。

 「お侍方ぁー。弁当もくるが・・。ちょっとまつがぁでー。・・それに盆地を抜けていくにも・・行く場所がわかれば山のほうが早いかも知れんがぁ。どうせ盆地に行っても遠回りだがぁ」
 若者は一度言葉を切り 山のほうを見回して
 「西にいったがぁ追いつけねぇが 北のほうなら途中から盆地は歩きにくい。道なら山のほうがいいがぁ・・少しは早く歩けるがぁ」

 知恵を貸してくる。
 「なるほど」宮田と田島が分かったとうなづく。
 「やはり地元の者がいたがいいな。たよりになる」宮田がつぶやく。
 「弁当をまちはしょう」
 宮田の言葉に田島がうなづき 弁当を待つことにした。

 あたりには そよそよと風がふき 小さな草を優しく撫でてゆく。宮田と田島はそよ風に気づくこともなく 辺りの緑をうかがっていた。
 そんな二人を若者はシゲシゲと観察していた。
 この山奥の村。村人以外に人を見ることもそうはないだろう。物珍しげに眺めては色々と聞いてくる。
 もしかすると侍を見るのも 初めてなのだろうか。



 「ほれ、粗末だがぁ腹のたしになるがぁ、持っていきなされぇ」
年寄りが曲がった腰を伸ばしながら弁当を差し出す。
 「夜は少し冷えるがぁこれも」
 酒も少量だが手わたした。
 「かたじけない。心遣いありがたくいただこう」
 宮田が嬉しそうに 笑顔をこぼしてうけとり
 
 「では 猟師たちのところまで案内していただきたいが」
 若者に向かい そう 声をかけると 別の働き盛りの男が黒く煤けた顔で
 「なに あそこに見える道を行けば大丈夫だがぁ。迷うこともなくつけるがぁ」
 男の指差すほうを宮田と田島がみると、よく踏み固められ、手入れされた道が見える。

 田島がその道をみて 感心したように
 「ほうー。言葉は悪いかもしれぬが、この辺りの山にしろ村にしろ よく手を入れられてますな。
 この辺りの者達は人ができているのでしょうな。」
 
 感心したと 田島が辺りを見回していると 最初の若者が
 「なぁに 山は飯の種だ。侍が刀の手入れするのと同じだぁ。
 他にする事もねえがぁ・・それよりもオラが暇だから猟師の処まで案内するがぁ」

 若者にとって 程よい退屈しのぎなのか、
 「よしっ いくがぁ。なになに、すぐそこだがぁ」

 断られる前に事を起こそうと『行くがぁ』と歩き始める。
 久々の刺激に若者の足取りは軽く先に先にと進んでゆく。

 宮田と田島は周りの者に軽く会釈をして『それでは』と弁当と酒のお礼をして歩き始める。
 若者へは後ろから声をかけて、盆地の事から先回りの事から、頭に浮かぶいくつかの疑問を投げかけてゆく。

 「ああっ 山のほうが足元がいい。急げば早いがぁ。
 二つ三つの山越えはするが・・・よく手入れされているがぁ」
 それを聞き 再び田島が感心と。


     tgjxn958@yahoo.co.jp         
                            

                                 にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ