14 選択 決断
by 聖 ★章弘(akimitsu)
我が身の力で何かを聴きとる。
風が運んできた。
どこかで誰かが騒いでいる様子。
「ざわめきだ・・人が騒いでいるぞ」
般若の眼で辺りを見まわす。
「風はこちらから来る。風に乗って来ているからこっちだ」
風上に般若の眼を向ける。
「あっ・いけないぞ・・あそこにいるっ」
般若の力を借りて見たものは 夜明けに通った尾根に 蟻んこのようにウゴメク人影だった。
その豆粒のような人影が ボウのいる辺りを指差し騒いでいる。
「いけない 報せなきゃ」
ボウは急いで岩から駆け下りる。
家族の般若から得られる力は 遠くを見渡せても足元は見えなかった。般若の面を顔から頭の上にずらし 足元を確かめるように できるだけ速く駆け下りてゆく。駆け下りながらも 言葉はさらに先を走っていた。
「旅僧さん大変だ 散策の者だよ。尾根の辺りにたくさんいるから おきなければ 眼を覚まさないといけないよ」
鬼はともかく 旅僧たちが逃げなければいけない理由は よく解らないが
雰囲気で逃げるべきだとは理解していた。
「いそいで いそいで 寝ている場合じゃないよ」
岩から駆け下りてくると 旅僧も弟子も声の主を探していた。
「ナニゴト」と 鬼も立ち上がり声の主を探していた。
頭からずり落ちてくる般若をしっかりと顔にかぶり
「旅僧さん」
岩陰から飛び出してゆく。
「おおっ。」
岩陰から飛び出す般若に驚きの声をあげ
「なっなんだ どうした」
旅僧と弟子が走りよってきたボウを囲む。
「岩の上から明け方に通った尾根を見ておくれよ。オイラが岩の上で景色を見ているのを 見つかってしまったよ。たくさんの人がこちらを見ていたよ」
「なにっ」
旅僧が驚きの声をだすと 弟子がすかさず走り出し 岩を駆け上る。
「・・います。結構な人数・・七名・・七名ほどがこちらを指差し見ています」
岩の陰から押し殺した声が聞こえてくる。
旅僧はすかさず踵をかえすと
「荷物を持て ボウも急げ 鬼にも急ぐように云え 追っ手がくる急ごう」
鬼は云われるでもなく 荷物を抱えていた。ボウも般若を懐にしまい 与えられた風呂敷包みを背中に背負い込み
「盆地ですか 谷間の集落ですか」
旅僧に聞いてみる。
「・・・うむ・・」
旅僧は考え込み
「弟子よ どちらが良いと思う。谷間を抜けての山道か・・それともこちら側の盆地を歩き 遠くに見える山を目指すか・・・意見を聞かせてくれ」
弟子は考え込み
「集落を越えたがいいのでは。その山道ならば手入れも行き届き歩きやすく 盆地は藪漕ぎも大変かと・・」
「・・・うむ」
旅僧は腕を組み 集落があるほうと 靄にかすむ盆地の先の山とを見比べながら考え込む
「うむ ・・・どちらが・・・」
考え込む旅僧の耳に
「盆地だよ」
ボウの元気な声が聞こえてくる。
旅僧たちが『なぜ』と顔を向けると
『なにを悩んでいるのさ』と 云わんばかりの眼で旅僧たちを見ている。
「ボウよ・・なぜ谷間でなく盆地にむかう」
弟子が少々むっとしてボウに聞いてくる。
「だってそうだろう。山が手入れされていて歩きやすいと云う事は追いつかれてしまうかも・・。
山になれた地の人間がオイラ達の歩いた跡をすぐに見つけるのさ。盆地ならば 最初だけ気をつければ 何処をどう歩いていったのか解りっこないさ山の手入れされた道から藪漕ぎに変わって歩けば こちらですよって 案内しているようなもんさ。
それよりも静かに盆地に入って 右か左か・・・どちらに行ったのか解らなければ 探すほうも嫌になってくるさ。・・兵法書でもなんでも・・昔の偉い人の書物を読んで勉強しなよ」
弟子は面白くないとも想ったが 『なるほど』と感心し すかさず
「ボウの案にのりましょう。藪漕ぎは大変ですが・・用心して足跡など気配を消してゆけば なかなか見つかるものとも思えません」
弟子の言葉に旅僧も大きく頷き
「うむ・・よしっ とにかくいそごう」
旅僧と弟子 鬼と子鬼は 山道を盆地へと向かい歩き出した。
水の流れがあれば 水の中を歩き 今のうちから気配を消して歩くことを心がけていた。
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