9 海があるなら鬼もいるのさ。
決して一人では生きていけないだろうが 少しの手助けで この幼い魂は自らの命を つないでゆくだろう。
「なるほど・・・。確かに」旅僧は関心と頷くと
「荷をもて すぐに出よう」
弟子へと指示し 自ら用意していた土を火にかぶせ わが身の荷物を背に担ぐ。鬼もただ事ではないと気づいたのか あわてて立ち上がり革で出来た荷物を肩からかけて 大きな荷もつを背中に担いだ。
「忘れ物はないかっ よし、ゆくぞ」
旅僧が音頭をとり 先に歩き始めた。
ボウは旅僧たちについて歩き始めるか 寺へと帰るか その場で思案していたが。
「ボウよ」弟子が声をかけてきた。
「提灯をもて」と ボウへと手渡す。
「はい」ボウはあわてて返事をし、提灯を受け取ると先頭に回り 慣れたものと旅僧の足元を照らした。
旅のお供を許されたと判断したボウは
「旅僧さん何処へゆくのさ」
これから向かう己の行き先に興味がわいてきていた。
「鬼さんが一緒だと人が歩く道は歩けないね」
「そうだ」
旅僧が『当然』と答える。
「けもの道ばかりだね」
「うむ」
旅僧の返事が 物足りないのか ボウには欲求不満が出てくる。
「ねえ 何処へ行くのさ」
答えを求めて言葉がでる。
「うむ・・・日本海だ」
あきれてか 子どもが愛らしいのか 今までにない道連れに笑顔をつくり応えてくる。
今まで弟子は遠慮であまりしゃべらず 鬼は言葉がわからずで静かな旅だった。が、般若を家族と言い切る童子が加わってから 静かなときはなかった。
「日本海って海のことかい・・・・。」
ボウの声が高くなる。
「オイラ海なんて見たことがないや。話には聞いているけど大きいんでしょう。村はずれの河もなかなかでかいけど・・比べ物にならないって聞いたことがあるなっ」
ボウは前をみたり旅僧を見たり弟子をみたりと忙しい その合間には鬼にも視線をむけてしゃべり続ける。
「・・・魚なんかもでかいんだろうなぁ・・。鯉よりもでかいのかな・・ねぇ 旅僧さんオイラ海は初めてだ。旅僧さんは見たことがあるかい 海には入れるのかな・・でかいから・・流れはゆっくりなのかな・・。
村はずれの河に入るときは石を投げ入れて河童の奴を威してはいるけど 海はどうなんだろうな。しっているのかい旅僧さん」
「はははっは。そうか海は初めてか 儂は何度とある。昔は漁師のせがれだ。海に入るときは特別何もせんでよい ・・弱いものは海に飲み込まれ 強く賢いものは大丈夫だ」
旅僧は楽しそうにこたえる。背中には自分達を捕らえようと近づく集団がいるが それも忘れて楽しんでいるようだ。
「へえー そうなの。偉い坊さんだときいていたから・・・。そうだね。いくら坊主でも親はいるんだね。・・でも・・なぜ坊主になったのさ」
「はははっ こらこら。坊主坊主というな 儂にも親はおるわい お前と一緒で木の股から生まれてきたわけじゃない」
「・・・だからなぜ坊主に・・僧侶になったのさ。何よりオイラはお坊さんが鬼と旅をしているのが信じられないや。旅僧さんどうして鬼さんと旅をしているのさ」
注意したことはすぐに正しているが それが長続きしない。持続させることより 好奇心を満たすほうが先に立つ子どもに
「はははっ このさいお坊さんでもよいか・・・。儂が鬼といるのが信じられぬか 儂にはその坊主と鬼に交じり提灯を持つお前のほうが信じられぬが・・よく平気でおれるものだ。・・・鬼が一緒におるのだぞ」
「・・・・。」
昼間は 肌がじりじりと焼ける日がつづいているが 夜は山歩きにちょうどよい涼しさが旅人を包んでいる。少し冷たい空気を押し退けるように ボウはうっすらと汗をにじませ闇の中を見つめながら考え込む。
「なぜさ・・。鬼退治の話はよくあるじゃないか おいら子どもだから初めて鬼を見たけど よその里には墓も在ると云うじゃないか 旅僧さんも前にそんな話をしたじゃないか
「・・うむ・・。」
たしかに 昔話をつくり話と思うは大人の勝手 ほんとうと思うは子どもの素直。いないものを見ると驚くだろうが いると云われているものをみて驚いてはみても いることに対しては不思議はない。
旅僧が感心と頷いていると弟子が
「ボウ 怖くないのか」
うしろから問いかけてくる。
「なぜさっ」
ボウが振り返り逆に問いかけてくる。
「・・・鬼退治するのは 豪傑のお侍か偉い坊主と相場は決まってら。お弟子さんは昔話を聞いたことがないのかい。もっと書物を読まなくちゃダメだよ。自分の師匠は 『偉い』って世の中がいっているのに、お弟子さんも自ら勉強しなくちゃ偉くなれないよ」
「まあ・・そうだが。物語の類ぐらい私だって知っている・・・。私も木の股から生まれてきたわけじゃない」
弟子はそこまで言うと『まいったな・・会話にならない』と頭をかく。
旅僧は振り返り弟子をみて。
「してやられたな。お前がやられたのは素直さに負けた。常識と言う知識で負けた。子どもの素直に負けた。まるで禅問答のようだなっ はっはっはっこれは愉快だ」
旅僧は愉快に笑い 弟子は弟子で気恥ずかしく笑う。鬼はわけも解らずにしゃべり続ける子どもを見て笑う。その光景を好奇心の塊が見て
「あっ 鬼さんも笑ってら」と笑う。
静かな山の夜は ここだけ楽しく賑やかになる。
山の魑魅魍魎は 何事と近寄り 嚇してみても意味なしと去ってゆく。

決して一人では生きていけないだろうが 少しの手助けで この幼い魂は自らの命を つないでゆくだろう。
「なるほど・・・。確かに」旅僧は関心と頷くと
「荷をもて すぐに出よう」
弟子へと指示し 自ら用意していた土を火にかぶせ わが身の荷物を背に担ぐ。鬼もただ事ではないと気づいたのか あわてて立ち上がり革で出来た荷物を肩からかけて 大きな荷もつを背中に担いだ。
「忘れ物はないかっ よし、ゆくぞ」
旅僧が音頭をとり 先に歩き始めた。
ボウは旅僧たちについて歩き始めるか 寺へと帰るか その場で思案していたが。
「ボウよ」弟子が声をかけてきた。
「提灯をもて」と ボウへと手渡す。
「はい」ボウはあわてて返事をし、提灯を受け取ると先頭に回り 慣れたものと旅僧の足元を照らした。
旅のお供を許されたと判断したボウは
「旅僧さん何処へゆくのさ」
これから向かう己の行き先に興味がわいてきていた。
「鬼さんが一緒だと人が歩く道は歩けないね」
「そうだ」
旅僧が『当然』と答える。
「けもの道ばかりだね」
「うむ」
旅僧の返事が 物足りないのか ボウには欲求不満が出てくる。
「ねえ 何処へ行くのさ」
答えを求めて言葉がでる。
「うむ・・・日本海だ」
あきれてか 子どもが愛らしいのか 今までにない道連れに笑顔をつくり応えてくる。
今まで弟子は遠慮であまりしゃべらず 鬼は言葉がわからずで静かな旅だった。が、般若を家族と言い切る童子が加わってから 静かなときはなかった。
「日本海って海のことかい・・・・。」
ボウの声が高くなる。
「オイラ海なんて見たことがないや。話には聞いているけど大きいんでしょう。村はずれの河もなかなかでかいけど・・比べ物にならないって聞いたことがあるなっ」
ボウは前をみたり旅僧を見たり弟子をみたりと忙しい その合間には鬼にも視線をむけてしゃべり続ける。
「・・・魚なんかもでかいんだろうなぁ・・。鯉よりもでかいのかな・・ねぇ 旅僧さんオイラ海は初めてだ。旅僧さんは見たことがあるかい 海には入れるのかな・・でかいから・・流れはゆっくりなのかな・・。
村はずれの河に入るときは石を投げ入れて河童の奴を威してはいるけど 海はどうなんだろうな。しっているのかい旅僧さん」
「はははっは。そうか海は初めてか 儂は何度とある。昔は漁師のせがれだ。海に入るときは特別何もせんでよい ・・弱いものは海に飲み込まれ 強く賢いものは大丈夫だ」
旅僧は楽しそうにこたえる。背中には自分達を捕らえようと近づく集団がいるが それも忘れて楽しんでいるようだ。
「へえー そうなの。偉い坊さんだときいていたから・・・。そうだね。いくら坊主でも親はいるんだね。・・でも・・なぜ坊主になったのさ」
「はははっ こらこら。坊主坊主というな 儂にも親はおるわい お前と一緒で木の股から生まれてきたわけじゃない」
「・・・だからなぜ坊主に・・僧侶になったのさ。何よりオイラはお坊さんが鬼と旅をしているのが信じられないや。旅僧さんどうして鬼さんと旅をしているのさ」
注意したことはすぐに正しているが それが長続きしない。持続させることより 好奇心を満たすほうが先に立つ子どもに
「はははっ このさいお坊さんでもよいか・・・。儂が鬼といるのが信じられぬか 儂にはその坊主と鬼に交じり提灯を持つお前のほうが信じられぬが・・よく平気でおれるものだ。・・・鬼が一緒におるのだぞ」
「・・・・。」
昼間は 肌がじりじりと焼ける日がつづいているが 夜は山歩きにちょうどよい涼しさが旅人を包んでいる。少し冷たい空気を押し退けるように ボウはうっすらと汗をにじませ闇の中を見つめながら考え込む。
「なぜさ・・。鬼退治の話はよくあるじゃないか おいら子どもだから初めて鬼を見たけど よその里には墓も在ると云うじゃないか 旅僧さんも前にそんな話をしたじゃないか
「・・うむ・・。」
たしかに 昔話をつくり話と思うは大人の勝手 ほんとうと思うは子どもの素直。いないものを見ると驚くだろうが いると云われているものをみて驚いてはみても いることに対しては不思議はない。
旅僧が感心と頷いていると弟子が
「ボウ 怖くないのか」
うしろから問いかけてくる。
「なぜさっ」
ボウが振り返り逆に問いかけてくる。
「・・・鬼退治するのは 豪傑のお侍か偉い坊主と相場は決まってら。お弟子さんは昔話を聞いたことがないのかい。もっと書物を読まなくちゃダメだよ。自分の師匠は 『偉い』って世の中がいっているのに、お弟子さんも自ら勉強しなくちゃ偉くなれないよ」
「まあ・・そうだが。物語の類ぐらい私だって知っている・・・。私も木の股から生まれてきたわけじゃない」
弟子はそこまで言うと『まいったな・・会話にならない』と頭をかく。
旅僧は振り返り弟子をみて。
「してやられたな。お前がやられたのは素直さに負けた。常識と言う知識で負けた。子どもの素直に負けた。まるで禅問答のようだなっ はっはっはっこれは愉快だ」
旅僧は愉快に笑い 弟子は弟子で気恥ずかしく笑う。鬼はわけも解らずにしゃべり続ける子どもを見て笑う。その光景を好奇心の塊が見て
「あっ 鬼さんも笑ってら」と笑う。
静かな山の夜は ここだけ楽しく賑やかになる。
山の魑魅魍魎は 何事と近寄り 嚇してみても意味なしと去ってゆく。
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