小説★月の道

41  冒険心は歳と逆向きに進む

41  冒険心は歳と逆向きに進む



                                  by 聖 ★章弘(akimitsu)


 田島は源の横に並び、
 「あれは何か怪しいものではなく・・珍しい動物では・・・」
 疑問を投げてみるが、源は空気の抜けたような声で、
 「儂は見てないがぁ、そんなこと・・解る訳ないがぁ」
 田島は源の言葉に頷き
 「・・・たしかに・・そうだが・・。先に進むしかないか・・。」
 静かについてゆくことにした。


 「おーこんな所に道があるがぁ」
 先をゆく武と杉が、小さいながらも道を見つける。
 先ほどの動物の気配も足跡も見つけることは出来なかったが、意見のほうは、
 「この道を行こう」と意見がまとまる。

 「滝の音がするがぁ、どうするがぁ」
 杉が侍達に尋ねる。
 皆は一度立ち止まり、どうしたものか意見を交わして、
 「とりあえずは、どこかで休むとしよう」
 意見の一致で、いま少し歩いて休み場所を探す事になる。

 道は整備されているのか歩きやすい。
 「おおっ。小屋があるがぁ」
 武が気がつき指を指し示す。
 小屋に近づき中を覗くと
 「手入れされて片付いているがぁ・・・ここでしばらく休ませてもらうがぁ」

 手ごろな小屋を見つけて一休み
 「しばらく休んで村でもさがすがぁ。暗くなる前に腹ごしらえでもするがぁ」
 若者は胃袋の心配も始める。
 宮田も田島もへとへとだった。
 何日もかけて見失ったでは面子もたたず、だからといってきた道を歩いて帰る気にもなれなかった。

 宮田と田島は話し合い、海まで行くことに決めていた。
 「お前達」
 山男三人にあらたまり声を掛ける。
 「すまぬが海までどれくらいの道のり・・・田島殿と私は海まで逃げていると思う・・私達も海までゆこうと思うが・・幾日かかろうか・・・」

 山男三人はしばらく話し合い。
 儂も若いのも海までは行った事がないがぁ・・・話によると儂らの村から歩き通しで五日以上かかると聞いた事があるがぁ・・どんなに急いでも・・・・。」
 源の言葉が終わると、
 
 「すまぬが・・・。」
 田島は三人に向かい、
 「海まで一緒に来てもらうとありがたい。お前達三人はさすが山男、今までの歩みに疲れの色も少なく、源どのなどは細身の体に太い肝をお持ちの様子。大変頼もしい。・・・・もちろんいくばくかの礼はするつもりだ」

 田島の言葉に、
 「おおっオイラはついてゆくが・・・杉はどうするがぁ」
 武は新しい世界を知る事の刺激に歯止めが利かなくなっていた。海までといわず、そのまま、何処までも歩いて行って見たい気持ちでいっぱいだった。

 「おおっ、もちろんオラもゆくがぁっ。オイラは海の向こうの果てまで行ってもよいがぁ」
 若者二人は勢いよく立ち上がり、今にも『いくがぁ』と、歩き出しそうにはしゃいでいる。
 若者二人の姿に、宮田と田島は
 「うむうむ」と頷き、
 「して・・・源どのは・・。」
 一番の頼りと源に視線を投げる。
 「ああ、儂もあと幾日か暇だがぁ」
 言葉少なげに応え、
 「礼が貰えるならゆくがぁ」
 しっかりもしていた。

 「もちろんだ」
 宮田と田島は応え、
 「出来ることならば、暗くなる前に馬を調達したいが・・。」
 と、望みを口に出し、源の答えをまつ。
 「儂らもこの辺りにはくわしくないがぁ・・この小屋からすると、そう遠くない処に村がありそうだがぁ」

 その小屋にいたのは、短い間だった。
 出来るなら、今日のうちに村を探し出し、寝床と食事と馬を調達したかった。
 「じゃ、いくがぁ」
 源の言葉に宮田と田島が、重たい足を引きつり、小屋の戸に手を掛ける。田島が戸をガタガタと音をたてたその時、小屋の周りでガサガサと草を掻き分け、ダダと走り抜ける音がする。

 侍達は無意識に手を刀に伸ばす。
 若者達はビクリと驚く、ただ一人、源は落ち着き、
 「鹿だ・・」とつぶやく。

 田島が腰を落とし小屋から走り出る。それに続いて宮田が走り出て辺りを見回す。

 「だれだっ」叫ぶ。
 「あっ、宮田殿あそこに」
 なにかが草を掻き分け走り去ってゆく。
 「あちらにも」
 今度は宮田が何かに気付き揺れ動く草木を指差す。

 「・・・・しか・・・。」

 宮田と田島がふと呟く、その後に杉の声。
 「やややっ、あれは鹿じゃないのがぁっ、牛の角だったがぁ・・・。」
 小屋から出て侍二人の横をテクテクと通り過ぎる。
 武と源もでてきて、
 「さっきのが、いたのがぁ」
 歩み寄ってくる。

 遠くから滝の音が聞こえてくる。藪を踏みしめ進む杉の背中をみていると、その背中が驚いたように立ち止まる。
 「どうした」
 皆が不審と杉に近づく、杉は静かな声で、
 「あそこ見るがぁ」
 滝の音が杉の言葉をかき消そうとする。
 「おおっこれは・・・」
 言葉は要らなかった。目で見れば杉の驚きは理解できた。

 急に視野が開け、その辺りだけ崖になっていた。
 崖を見下ろすと下のほうには沢がある。
 目には見えないが、滝の音がゴオゴオと響いて、何処からか空気に漂う水しぶきらしきを運んでくる。
 水しぶきで霞がかかった沢を皆で見下ろすと、
 「ああっ・・」
 源が言葉をこぼす。

 「やはりカモシカだがぁ」
 源が見下ろしながら、
 「珍しいがぁ・・」
 いかにも珍しそうにしゃべる。
 「この辺りにはいるがぁー。儂らの山にはあまりいないがぁ」

 「あれがカモシカがぁ・・」
 若者二人が嬉しそうに見つめている。
 「オラは初めてだがぁ」
 楽しげに目を凝らしている。
 「もっと近くで見たがったがぁ・・・」
 杉が少し喜び、武が少し残念がる。

 「なんだそれは」
 何の話だと田島が聴いてくる。
 源がゆっくり静かに
 「山奥の鹿だがぁ・・牛に似ていて毛が牛より多いがぁ」
 少し珍しいと話して聞かせる。




                        にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ






40 見たいように、知ってるように見てしまう。

40 見たいように見てしまう

                            by 聖 ★章弘(akimitsu)

 「申し訳ない」
 田島が腰から刀をはずし、
 「慣れない山歩き・・・少々疲れた・・しばし足を休めたい」
 ぜぇぜぇと息をきらしながら誰に言うともなく云い、その場に腰を下ろした。

 「私も」
 宮田も刀を腰から外すと座り込み
 「ふう」
 ため息をつく。
 「じゃ、儂らも・・。」
 源が腰を下ろすと、
 「食べ物があまっとるがぁ」と、若者二人も楽しそうに腰を下ろす。
 
 疲れ、意気消沈している侍をよそに、残り物を平らげた若者達は、
 「先を見てくるがぁ」
 疲れていないのか、立ち上がり歩き出そうとする。
 
 「若い」
 宮田と田島が、腰の軽い若者二人を見上げて、感心と羨ましさを込めて見つめている。
 見上げられる二人は
 「はっ」何かに驚き、しゃがみこむ

 「源さん・・・こっちに来るがぁ」
 「うんっ・・。」
 源は面倒臭い風に手を振る。
 「大人しくするがぁ・・儂は歳のせいできついがぁ」
 あくびと共に背伸びをし、
 「少し寝るがぁ」
 その場で横になり身体を沈める。

 横になる源に顔も向けず、若者二人は肩寄せあい何かを真剣に見ていた。
 「どうした」
 田島が、気だるく立ち上がり近づいてゆくと、
 「しゃがむがぁ」
 近づく気配に顔を向けずに手で合図する杉、
 宮田も「何事だ」と身を屈めたまま近づき、田島に声をかける。

 「さぁ・・・。」
 田島も首をかしげ、若者二人の後ろで身を屈めていると、
 「あそこだがぁ・・・よく目を凝らしてみるがぁ・・。」
 「・・・・おおっ」
 宮田と田島の驚きの声が聞こえる。
 
 「でかいっ」と宮田
 「鹿か・・・牛か・・・大きいな・・・」

 草木の陰で姿かたちはしっかり識別できないが、
 「角があるぞ」
 武がつぶやき、何気に指差す。
 「おおっ、角だ・・左手にもう一匹の頭の一部が見える・・・あれは角だ」
 武の言葉につづき、
 「おおおっ。よくよく見れば幾匹かいるぞぉ」

 『ボソボソ』と、つぶやき声が源の耳にも流れてくる。

 源も興味が湧いたのか、
 「何をみているがぁ・・・」
 無造作に立ち上がり近づいてくる。
 「あっ」
 源以外のものが、
 『しまったっ』と、ばかりに舌打ち混じりに言葉をはく、遠くからはガサッと草木の揺れる音がして、

 「あーあっ、逃げていったが・・・。」
 皆が残念と立ち上がり源をみつめる。
 「・・・なんだ・・・鬼でもいたがぁか」
 
 源が皆の反応に戸惑いながら
 「なんだ・・・何をみたがぁ・・・」
 源の言葉を無視して、武と杉があきらめ顔で辺りを見回し、
 「アノ辺りにいたがぁ・・・」武が指差す。
 「だから何がいたがぁ」と、源
 「なんだか・・」
 杉が話し始める。

 「牛のような・・鹿のような・・牛の角が生えている・・鹿か。とにかくデカイがぁ」
 杉の言葉が終わると、武がすかさず口をはさむ。
 「あれは鬼じゃないのかぁ・・・。きっと鬼が変化している姿だがぁ」
 
 「鬼・・。」宮田が「あれは鬼か」武に詰め寄る。
 「いやいや」
 武はあわてて、
 「わからんがぁ・・角があったし・・姿を化ける話はよくあるがぁ」
「いや、鬼かもしれん」
 宮田は大きく息を吸い込み、
 「追われる身ゆえ、変身もありえるだろう・・・何しろ得体が知れぬ・・・そういう術が使えても不思議はない」

 力説する宮田の後ろで、田島は首を捻り考え込んで、その横では
 「かもしれんがぁ・・・」 
 武が頷き、
 「足跡は五人から六人ぐらい・・・今見たのは・・・それくらいの数いたんじゃないがぁ・・・。」
 たけのことばに『おおおッ』宮田が反応する。
 「とりあえず逃げたほうへと追いかけてみるか」
 云い終わると
 「田島殿」
 振り向き声を掛ける。
 
 腕組み首を傾げて考え込んでいた田島は、
 「・・・・はっ」
 慌てて宮田のほうへと顔を上げる。

 宮田は目が会うと
 「歩きましょう・・疲れていますが・・・今しばらく歩きましょう」
 宮田の言葉に田島は頷くしかなく、
 「では・・・」と、返事をして宮田のあとをついて歩く。

 杉と武は楽しそうに宮田と田島の前を、道案内よろしく歩き始め、源はあらゆるものを吸い込むかのごとく欠伸をして、二本歯をさらけ出す。

 源はめんどくさそうに歩き出して、
 「きっと・・カモシカか何かを見たんじゃないがぁ・・」 
 モゴモゴと独り言を云う。

 「なにか・・」
 尋ねる田島に、
 「いやいや・・なんでもないがぁ・・・」
 めんどくさそうに歩き、欠伸を二三続ける。




                        にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ











39 狐と狸

39  狐と狸


                                       by 聖 ★章弘(akimitsu)
 


 「うむ」
 旅僧が頷き立ち上がると、鬼は、
 「ボウ」
 小さく声をかけ抱きかかえた。

 夜の山は肌寒く、ボウの身体は熱く火照っている。
 暗い木々の向こうには、竜の住む滝がゴウゴウと存在を示している。

 鬼に抱えられ微かに戻る意識の中
 「おねぇ・・・」
 木々に隠れるつきの明かりがボウの瞳に映りこむ。

 
 
 「おかしいが・・・」
 源は歩みをとめ、辺りをみまわす。
 辺りの山は緑の中に白い岩肌をそびえ起たせ、ゆく道の険しさを示している。
 そんな景色の中、足元をキョロキョロと見回して、
 「うーん・・・。」
 しきりに首をかしげている。

 「どうした」
 最後尾をあるく田島が立ち止まり声をかける。
 その声に先頭の宮田が後戻り、
 「どうした」
 源の元へと近づいてくる。

 「・・・うーん・・・鬼どもは・・この道を歩んでいないな・・・。」
 源は自分の意見を確かめるように、杉へと顔をむけ、同意を求める。
 「うん、儂もそう思うが」
 杉は、うんうんと頷き、
 「どこかで脇へとそれていったがぁ」
 源へと、応えてかえす。
 
 「他に道があるのか・・」
 田島が武を押し退け、源と杉へと近づいてゆく。
 「いやいや」
 杉は首をふり、
 「道があるかどうか・・この辺りになると・・わからんがぁー・・。しかし、足元に岩場が多くなって、しばらくは足跡が見て取れていたがぁ・・・。」

 杉はそこまで言うと、減へと顔を向け言葉を閉ざす。
 「・・うん・・・。」
 源が頷き、杉の閉ざした口の代わりに、
 「足跡はひとり分の様子・・・五人・・いるはず。多分はめられたがぁ」
 
 二本歯をチラリと覗かせ、空気の漏れる声で、
 「やられたがぁ」
 つぶやいた。

 「なにっ」
 宮田が驚き一歩近づく、
 「どこでっ」
 悔しそうに右脚で バンッ と地面をたたく。

 朝靄の中の騒ぎから用心して歩きすぎたかと、後悔の言葉をこぼし始める宮田へ、
 「雪の日には」
 杉が眉をあげて、
 「狐も自分の足跡を後戻り、見事に姿を消すがぁ」
 
 宮田も田島もしばらく黙り込み、
 「どうすればよい」
 思い出したように、杉と源へ聞いてくる。
 「うーむ」

 猟師二人は腕組み、頭をもたげてしばらく考え込む。
 皆が考えを邪魔せぬように黙り込んでいると、
 
 「滝の音だがぁ」
 武が不意に頭をあげて、何処となくあたりを見回す。
 何処からとなく滝の音が皆の耳にも聞こえ始めた。
 
 「そうだがぁ」
 源が腕組みを解き、パンッ と手のひらを叩く、
 「沢だがぁ、鬼でも、物の怪でも、水は飲むだがぁ。たぶん、滝の音を頼りに歩くがぁ、どこかに川があるがぁ」
 源の言葉に『うむうむ』と宮田が頷いて、
 「そうだ、他に案がないのなら、滝の音を頼りに進むがいい、・・滝の音はどちらから」
 とるべき行動が見えると、宮田は勢いもよく、辺りを見回して滝の音の来るほうを探る。

 「山の中・・解りづらいが・・・。」
 「うむ、・・わかりづらい・・・。」
 田島も耳をすまして、滝の音がやってくるほうを聞き分け様とする。

 「たぶん、あっちだがぁ」
 今まで登ってきた道を指差し、
 「少し戻って道なき道を行くしかないがぁ」
 その源の言葉に武が、
  「この耳にもあちらから聞こえてくるがぁ、このまま進むより後戻ったがよさそうだがぁ」

 朝の恐怖も、お日様が高く昇ると消えてなくなり、滝の音を目指すようになってからは、武と杉が、いつの間にか先頭を歩いていた。
 宮田と田島も疲れから、何もしゃべらず、山の事は山男へ任せ、黙り込んだままついてきている。

 しばらく後戻った辺りで、
 「この辺りからは向こうへ進むがぁ、道はないがぁ、歩きやすそうだがぁ」

 下草の少ない場所で武が指し示し
 「風も冷たいがぁ」
 田島と宮田へ賛同を求める。
 田島が丸い身体から、ぜぇぜぇと息を吐きながら頷く。

 「滝の音も聞こえるがぁ、水の匂いもするがぁ」
 杉が進む方向をみながらつぶやくと、
 「源さんいいがぁ」
 経験豊かな先輩の賛同を得ようと顔を向ける。
 源はニヤニヤと笑いながら、
 「また小便をちびるがぁ、ゆっくり行くがぁ」
 カラカイ返事をする。

 若者二人は
 「いやー」
 照れ笑いをしながら返事をして、話題を変えてゆく、

 「お侍がたぁ、しばらく休むがぁ」
 宮田と田島へ声をかける。
 二人は立ち止まりお互いに顔を向け合うと、
 「うむ」と頷きあう。





                        にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ








38 日暮れと共に

38 日暮れと共に・・


by 聖 ★章弘(akimitsu)

 耳には滝の音がゴウゴウと響いてくる。
 すでに太陽は見えずに、あたりは薄暗くなっていた。
 
 「この滝から右手に入ってゆくと山小屋があります。時期によっては人が山の手入れで居ますが、今は空きの状態。明るいうちには無理ですが、そう遠くはありません」

 唐一朗が脚を止め旅僧に大声で説明する。
 旅僧は『うむ』と頷くと、後ろを振り返り、弟子達に声をかけようとする。が、振り向いてみた光景は、ボウが鬼の背中で暴れ、弟子に怒られている姿だった。
 「何をしているのだ」
 
  つぶやき見つめる旅僧と一緒に唐一朗たちも見つめている。
 どうやら滝が見たいと駄々をこねている様子だ。
 「手に負えぬ・・今はよいが夜になれば再び熱が身体を蝕むだろうに・・」
 静かに落ち着かせるには滝を見せるが一番かと、ボウを鬼の背中から下ろし言い聞かせる。
 
 「よいかボウ」唐一朗が耳元で大声をだす。
 「これより少し歩けば滝を全体で見渡せる・・・良い子で歩くのだ」
 しばらくは、真上から見たいと駄々をこねていたが、
 「滝つぼには竜がいて、うえから覗くと祟られる」
 ついつい、思いつきで口からでまかせを言ってしまった。

 「・・・竜・・・。」
 とりあえず静かになった。
 唐一朗たちの目には、『祟られる恐ろしさ』に静まったように見えていた。

 唐一朗は旅僧のほうを見て、
 『子どもの扱いは任せてください』とばかりに、ニヤリとして見せた。が、旅僧と弟子は顔を見合わせ、
 『今宵は寝付くまで・・竜の話を聞かせろとせがまれ・・・唐一朗は大変だ』
 唐一朗の苦労を思っていた。


 唐一朗を先頭に、沢から斜面を、木を掴み、土を掴み、蔦を掴みとよじ登る。
 道なき道を歩き、しばらく斜面を這い登った頃、『後ろを振り向け』と唐一朗が顎で合図する。

 「おおおっ」驚きの声と共に後ろを歩く鬼へと何やら話しかけている。鬼も頷き、笑顔を見せてボウへと言葉を返していた。
 
 前を歩く唐一朗と慎太郎は『言葉が解せるか』と不思議そうにその風景ともども眺め、疑問をたずねようと口を開きかけたが、
 「急げ、立ち止まるな」
 旅僧が後ろから鬼の背中を押してくる。

 しばらくの間静かに手足を使い、斜面をよじ登る。
 「やや、やっと道に出た」
 唐一朗と慎太郎の声が、斜面をよじ登り、自分の手足を見つめていた皆の目を、上へと向けさせる。
 「ふん」
 人の足で踏み固められた狭い道へ腰を下ろし、皆が鼻から疲れの息をはく。

 「・・・暗く・・なってきたな」疲れの吐息で旅僧が弟子へと顔を向けると、弟子は四つんばいのまま、何やら地面を見つめている。
 「どうした・・」
 気分でも悪いのかと旅僧が近づくと、
 「これは足跡では・・・まだ新しい足跡のようです」
 鬼とボウ以外が眉間に皺をよせ近づいてくる。
 暗くてハッキリとはしないが、よく見ると、

 「幾人かの足跡のようです・・今日のあしあと・・・でしょう」
 慎太郎はつぶやくと辺りを見回し、
 「小屋に誰かいるのでは・・・。」

 皆が『ハッ』と息をのみ、
 「しまった」
 「沢を歩かぬほうが・・」
 口々に、後悔を口にだしてボウをチラリ見る。
 ボウはグッタリと座り込み、鬼へと身体を預けている。

 「小屋で寝かせないと・・子どもが・・・。」
 唐一朗が心配そうにつぶやき、
 「近くまでいって、とりあえず様子を見てみよう」
 慎太郎が意見する。
 
 とりあえずは歩き続ける事を決めて立ち上がり、ボウを鬼の背中へと括りつける。

 疲れの色も濃く、辺りも暗く、口数すくなく、もくもくと歩いていると、
 「あそこです」
 唐一朗が指を指す。
 木々の間に小屋が見える。
 『どうする』と一同に話し合い、とりあえず唐一朗と慎太郎が様子を見に行く事にした。
 
 二人の後姿を見つめていると、後ろから鬼が何やら話しかけてくる。
 「ボウ」
 その言葉だけが聞き取れる。
 「なに」
 旅僧が振り返ると、鬼がボウの額に手を当てて、何やら旅僧に訴えて来る。
 旅僧が近づきボウの額に手を当てる。
 「いかん」
 近づくだけで身体が熱をもち、熱く火照っているのが解った。
 「あつい」
 あらためて額に手をあて、
 「熱が高いぞ」
 旅僧の言葉に、弟子がすかさず、手ぬぐいに水をかけ手渡す。
 「これを」
 
 額に手ぬぐいを当てると鬼が何やら弟子に向かってうったえている。鬼は肩から掛けている革の袋から銀色の筒を出し、中から植物を乾燥させたらしきものを取りだし見せる。

 弟子が受け取り、暗い中目を凝らして、ひっしでそれを見ていた。
 「なんだ・・・」
 旅僧が弟子へ問いかける。
 「・・・何かの実を乾燥させて・・いるようですが・・」
 高さを変えて、観察しながらこたえる。

 鬼は何やら、身振り手振りでうったえてくる。
 「煎じて・・・飲ませろと・・・」
 弟子が、理解した事を口に出し、旅僧が鬼へと
 「うむ、解った。が、今しばらくまて、二人が様子を見に行っている。・・・・ここでは無理だ」

 旅僧も身振りで、小屋を指差し説明すると、意味は確りと伝わっているようだった。

 しばらくの間、身を屈めてじっとしていると、ガサガサと人が歩く音がする。その場で立ち上がり、確認したい気持ちを抑えて、相手から姿を見せるまで、用心をして隠れていた。

 「私です・・・慎太郎です」
 小声で聞こえてくる。
 弟子がゆっくりと立ち上がりのぞくと、暗い中、松明が見える。
 「慎太郎殿か」
 弟子が声を掛けると、
 「そちらですか」
 声を頼りに近づいてくる。

 「ここでしたか。・・辺りは暗くなってしまいましたが、これを」
 手に持っている松明とは別に、提灯を弟子へと手渡してきた。
 「ささっ、小屋には唐一朗がひとり、いまご馳走代わりに火を起こしております。ささっまいりましょう」





                        にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ







37 これは珍しい・・・。鬼も笑う

37 珍しい・・鬼も笑う



聖 ★章弘(akimitsu)


 旅僧に小声できく。
 旅僧は『まだいたか』と、弟子に聞く。
 『まだいます』と頷く弟子。
 
 旅僧がしずかに頭をもたげてゆくと、皆が我慢できずに一緒に頭をもたげてゆく。
 旅僧の右横に唐一朗が頭をだし、左横に弟子、ボウ、鬼、慎太郎、目玉までを岩からだし、しずかに それ を見つめていた。

 「あれはなんだ・・・毛ぶかい牛か・・・」慎太郎が小声でつぶやく。
 「いや、鹿だろう・・。」弟子が否定する。
 「何・・・ねぇなに」
 ボウが熱も忘れ、好奇心のままに弟子と慎太郎を、せわしなくキョロキョロと見回し
 「ねぇねぇ」
 しつこく聞いてくる。
 鬼は訳の解らぬ言葉で、ボウに向かい何か言っている。
「なに、鬼さん何か知ってるの」
 ボウが小声で聞くと、意味が通じているのかいないのか、鬼は眉間に皺を寄せて軽く首を横に振る。

 「あれは・・・。」
 旅僧がつぶやく。
 唐一朗が旅僧に顔をむけ
 「ご存知で・・・。」
 静かにたずねる。
 皆は中腰のまま、脚をプルプルと震わせ、それに見入っている。

 「あれは・・・」
 二言目で皆の顔が旅僧に向けられる。
 「カモシカでは・・・儂もはじめてみた・・こんな所にいるのか・・山奥の生き物らしいが・・」
 「あれがカモシカ・・・。」
 唐一朗が言葉をこぼすと、
 「知っているのか」
 慎太郎が聞いてくる。
 「いや・・聞いた事があるだけだ」
 とにかく、皆にとっては珍しいものだという事はわかった。
 そうなれば、ボウの好奇心が落ち着いている訳がなく、
 「カモシカ・・・」
 つぶやくと、鬼の背中でガサゴソともがき、縛っている腰紐から抜け出して鬼の背中を抜け出してゆく。
 背中を這い上がり、岩の上へとゆっくりよじ登る。

 

 「これ、ボウ」
 弟子が慌ててボウの足首を掴むと、
 「あっ、離しておくれよ」と、カモシカを見つめたまま脚を振り、弟子の手を振り払う。
 「こ・・これっ」
 皆が慌ててボウを止めようとするので、カモシカは人の気配に気付き、水を飲むのをやめて頭をもたげる。
 「あっ・・目があっちゃった・・かな」
 ボウに気づいたようだ。
  
 皆がザワツキを鎮め、いっせいにカモシカへと視線をむける。
 たくさんの目がいっせいに浴びせられたせいか、カモシカは身体をピクリとさせると一気にムキを変え、沢の岩場を駆け上り始めた。

「あっ」
 皆がいっせいに驚きの声を上げる。
 それは一頭のカモシカが走り出したからではなかった。もちろん大きな身体で見せる身の軽さもあるが、一頭だと思っていたカモシカが、数頭、一気に走り出したからだった。

 大きな身体で、岩場を巧みに駆け上がる姿は壮観なものだった。
 「すごいなー」
 ボウが驚きと共に立ち上がると、
 「まさにっ」
 唐一朗と弟子の声。
 「なんと身軽な」
 慎太郎も感嘆の声と共に立ち上がる。

 カモシカたちは途中で立ち止まり、振り返りボウたちを見る。しばらく見詰め合い、ある種の感動の中、まだ知らぬ野生の凄さを垣間見て、尊敬の念すら抱いていた。

 その感動の空気の中、鬼が静かに立ち上がると、こちらを見つめていたカモシカたちは驚き、一気に駆け出して姿を消してしまった。
 鬼の一段と大きな身体に驚いたのだろう。カモシカたちの姿はそれっきり見えなかった。

 旅僧をはじめ、皆が視線を鬼へとむける。

 鬼は自分のせいでカモシカを脅してしまったのを、皆の視線で感じ取り、申し訳なさそうにゆるりとしゃがんでいった。

 「鬼さん、もう遅いよ」
 しゃがんだ鬼を見下ろすいくつもの目、鬼は申し訳なさそうに笑っていた。



  
 ボウはキョロキョロと辺りを見回し鬼の背中にしがみついている。
 それをみて、
 「こらボウ、大人しくしておれ、そんなに動くと鬼も疲れが酷いであろう」
 弟子が言葉を投げる。
 ボウはコクリと頷き、おとなしくはなるが、目玉だけは落ち着き無く岩の陰、木の陰へと、あたりを伺っていた。

 その好奇心と同じ種類の好奇心が、
 「おい、唐一朗みたか」
 慎太郎が声をかける。
 「なにを・・・。」
 唐一朗が小声で聞き返すと、
 「鬼の奴、申し訳なさそうに笑っていたぞ・・・。」
 「・・・それが・・・。」と、唐一朗。
 「・・・まるで・・人間のようだ」
 「・・・そうだ・・人間だ」
 「・・・そうか・・そうだ・・人間だったな」
 納得言ったのか、いかないのか、頷く慎太郎。

 「そうだ・・人間だ」と、唐一朗。
 「しかし、同じように笑っていたぞ」
 「・・・・。」返事にこまる唐一朗。

 唐一朗は応えに困り慎太郎を見つめたままでいると、
 「そうだ・・・そうか・・人間かぁ・・・・。」
 納得しきれないのか、『ぶつぶつ』つぶやき歩く慎太郎だった。

 静かに歩きつづける一行に、何処からか微かに ゴォー と空気を伝わり聞こえ来るものがある。その音の中で、まだ、好奇心は鬼の背中で静かに落ち着いていた。 




                        にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ