65 動く時 「あっ」
唐一朗も気付いた様子。
「あのとき追っ手らしき相手に出くわしたと云って・・・。いやいやあの時も驚いた・・霧の中から・・・慎太郎などは刀に手を掛け・・・。あの時の者たちと云う事ですか・・・。」
唐一朗は頷きながら
「それで・・・あの海辺でボウの様子が妙だったのか」
そこまで云うと唐一朗は考え込み
「すると・・。」顔をあげる。
「そのとおりだ」と慎太郎。
「相手もボウが般若になっていたと気付いていてもおかしくない」
慎太郎の言葉に唐一朗も続ける。
「あの山男達は儂の事もしっていた。コレは・・よろしくないな。鬼がどうしたともいっていた」
「鬼の事を知っているのは」と弟子。
「唐一朗の家族とあの白髭のお医者様。それと幾人の使用人と犬どもぐらい」
弟子の言葉に続けて慎太郎が
「噂だけならこの辺りの者たちは皆がしっている」
皆は黙り込み。
「確実に怪しまれているな」旅僧がつぶやき、
「すでに、そこここに監視の目があるかも知れぬ。辺りには気をつけよう」
旅僧は皆を見回しうなづく。
「準備にかかろう」
旅僧の一言で皆はゆっくりと立ち上がり、それぞれの役目を果たしに動きだした。
ボウは「いいぞ」とつぶやくと立ち上がり、身体に付いている木屑を叩き落とす。右手には犬の彫り物。不自由な手を駆使し、足の指も使って彫り上げたもの。足と手には少々の切り傷もつくっていた。
半日もかけずに彫ったそれは、少々の イビツ さもあるが、ボウの気持ちがしっかりとこもっていた。
「親犬は男か女か解らないけど、オイラの感謝の気持ちだ」
ボウは木陰で彫っていた。感謝の彫り物を懐にしまうと辺りを片付け、親犬の眠る場所へと歩き出す。
その姿をこッそり伺うものたちがいた。
「武よ間違いないがぁ」
「おめぇも、そう思うがぁ」
武と杉 二人でうなづきあう。
「二人の目で見ても間違いないがぁ」
その武の言葉に、源がいまひとつ信じられないという顔で見つめている。
海を眺めている時、あの浜辺でボウたちを見かけた瞬間はわからなかったが、『鬼の弟子』その言葉が聞こえた時に、武の頭の中では鬼にさらわれた唐一朗とボウ。見慣れない者達には不思議な雰囲気を見せる白い身なりの医者。
自分自身の頭の中では理解できていなかったが、何となく結ばれていった。
「・・・なにかがあるがぁ。金持ちの子息が鬼に攫われたと噂され、その息子は実際に鬼を探しに出ていたと云う話だがぁ。あの靄のかかった山道、あの童子が面を被り鎌を振り上げて立っていれば驚くがぁ」
武は身を隠しつつ源へとうったえる。
「武が見間違えたがぁわかるがぁ、杉も見間違えたがぁ、山の中慣れとるがぁ」
源の言葉に杉がこたえる。
「いや・・面目ねぇがぁ・・・見間違えたがぁ・・・オラもまだ青二才だがぁ・・今となればそうだったがぁ気もするがぁ」
面目ないと二人とも座り込み。
「どうするがぁ」
源も座り込む。
「宮田さまや田島さまに報告するがぁ。それと今しばらく後をつけたりして様子をみるがぁ」
源の言葉に「いやいや」と武が首をふる。
「まだがいいがぁ。もし違ったら駄目だがぁ、ここはしばらく探るがぁ」
「そうだがぁ、それがいいがぁ」
杉も賛成する。
「だな・・もし違ったら大騒ぎじゃすまないがぁ・・。」
三人は立ち上がりボウが歩いていったほうへと足をすすめた。
「・・・みうしなったが・・。」と武。
「なに子供の脚、すぐに追いつくがぁ」と源。
源の言葉どおり、ボウはすぐに見つけることが出来た。後をつけたり待ち伏せしたり、その手の事は野生を相手に暮らしている山男たち、付かず離れずたくみにボウの後を付いて歩く。
松林を抜けて海の見える丘。
「綺麗な場所だ」
ボウは景色を楽しんでいた。足元に積み重ねられた石へと顔を映し、
「ここは綺麗な場所だ。犬さん、おいらの代わりに死んだのなら申し訳ないからコレをもらっておくれよ。・・・オイラからの気持ちだ」
ボウは少し不細工だが、気持ちのこもった犬の彫り物を、積み重ねた石の前に置いた。数珠を手にその場に座り込み。
「線香もあるけれど風が強いから・・。成仏しておくれ」
手を合わせて心を込めるとボウは静かに立ち上がる。もう一度手を合わせ踵をかえすと、
「あっっ」
驚き、息を吐くと同時に飲み込んだ。
松の陰で。
「どうするがぁ・・」
杉がつぶやき源もつぶやく。
「墓に違いねえがぁ・・あの足元の重ねた石は鎮魂の石だがぁ」
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