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日ノ本光弘

Author:日ノ本光弘
ようこそ!文章力など弱いのですが、先に歩くのが疲れたサラリーマンの方、少年の方読んでみて。
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小説★月の道
イキドマリの道ではない 確実の道でもない ツライ道でもない わくわくがある道ではない こころ踊る道 
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8 理解
8 理解



 「・・・・。」

 ボウは旅僧に向かい、何かをいいかけたが、あきらめた様に視線を鬼へとうつす。
 勢いよく鬼に顔を向けたボウの動きに、鬼はピクリと驚く。
 「鬼さんは家族がいるの」
 間髪いれずにきいてくる。
 「大人みたいだから子どもいるのかな。お父うとお母あもいるのかな。兄弟とかもたくさんいるのかな。・・オイラはお姉ぇがいいなあー」

 ボウは、鬼へと向かいしゃべり続ける。これでは言葉が通じたところで答える間がないだろう。鬼は旅僧と弟子とボウを順繰りにみつめ、どうしたものかと悩んでいるようだ。
 旅僧も苦笑いをしながら、 
 『こればかりは儂もなす術なしだ』と 気の毒そうに鬼へと視線をかえす。
 
 「ねえ オニさん。オイラは捨て子らしいんだ。あまりはっきりとしたことは誰も教えてくれないんだけれど・・・。兄弟もいないのさ。でも 木の股から生まれてきたわけじゃないと思うから、どこかに生んでくれた人はいるはずさ・・でも兄弟はどうかな・・。
 でもねオニさん オイラ読み書きできるんだぜ。村の子どもや大人達や、よく遊んでくれてた叉さんも読み書きできないから、オイラが読んであげたり書き物をしてあげたりしてたんだ。
 ねえ・・こんど鬼の言葉教えておくれよ』

 鬼は言葉なしに、眉間にしわ寄せ首を横に振る。
 「オイラはボウって呼ばれてるんだ・・解るかい・・ボウだよ」
 ボウは自分の鼻に手をあて
 「ボウだよ ボウ  ボ・ウ」
 鬼は少しの笑顔をつくり首を横にかしげる。
 「文字にするとこうだよ」
 
 ボウは薪を手に、灰を集めて平らにし、そこへ『ボウ』と書いてみせる。
 「いいかい。ボ・ウ・だよ。ボウ」
 文字を指で追いながら『ボ・ウ』と繰り返す。二度三度と繰り返すと、自分の懐に手を入れ、般若の面を取り出して鬼へと見せる。

 鬼は般若を気味悪がり、突き出された面から逃げるように、状態を後ろにそらして首を振っている。
 「なんだ鬼のくせに、般若が怖いのかい・・親戚みたいなものだろう。・・違うのかな・・・。」
 
 あのね鬼さん。これはオイラの家族さ。オイラが小さいときから・・・今も小さいけれど・・もっと小さなときから同じ部屋で寝起きしてきたんだ。オイラが村の女達から乳をもらっていた時からさ」

 ボウは、般若の面を、自分のほうに向けてみつめる。

 「皆怖がるけれど、オイラは小さなときから一緒だし・・眠るときはお休みと云うのさ・・・寝床からお休みと云うと笑っているように見えるんだ」

 ボウは旅僧と弟子へと顔を向け。
 「ほんとうだよ。きっと般若も皆が怖がるから寂しいのさ」

 しげしげと般若の面を見つめる童子を、旅僧と弟子が、胸を少し掴まれたような刹那さで見ていた。

 幼きときより一人で懸命に生きてきた子ども。

 村でみる家族に、わが身の寂しさで泣いた夜も幾日あったことが伺われる言葉。小さな身体にしみついた寂しさと孤独。それを受け入れ、理解できているのか出来ないのか。  

 今まで生きてきたのだろう。

 幼き魂は村を出ることで、何か自分の存在を見つけようとしているのかもしれない。
 弟子も離れて暮らす親を思い出すのか、目に湿り気を増やして火を見つめている。
 
 「でも、オイラには遠い国からきたお姉ぇがいるのさ」
 その言葉で旅僧が頭をあげ、ボウへとたずねる。
 「お前は一人だときいたが・・姉がいるのか・・・。」
 不思議そうにたずねる旅僧に、
 
 「いないよ。鏡の事さ。寺の納所に色々なものがあるのさ。旅の人が置いていったものや、行き倒れの人の遺品とか。あと落ち武者さんたちが看病してくれたお礼に置いていったものとか・・。
 オイラは満月の夜に黙って鏡を・・・鏡の事は怪力和尚達にはないしょだよ。・・・持ち出しているのさ そして月を移すのさ。・・・鏡の中にさ。夜空のお月さんは皆のものだろ。でも 鏡の中の月はオイラ一人のお月さんさ」

 旅僧に説明が終わると再び鬼へと視線をうつし、
 
 「オイラ捨て子だから一所懸命働くのさ。そうしないと居場所がないのさ、旅の人が教えてくれたんだ。その旅の人も捨て子だからよく解るんだって。
 役に立たない親なしは居場所がないって、だからよく働いとけって。
その旅の人はこうも云ったよ。オイラは読み書きも出来るし、覚えがよいから勉学の道に進めって。長崎という処では異国の人たちがいっぱい居るから、大きくなったら長崎に行って誰かの弟子について勉強しろってさ」

 ボウは焼け落ちた薪の欠片を火にくべながら、

 「鬼さん知ってるかい。異国の人たちはでっかいんだってさ。きっと鬼さんぐらいでかいはずさ。
 その人たちが海の向こうから、ずっとずっとずーと向こうからくるんだって・・・オイラ・・偉くなることが出来たらいこうと思うんだ・・・どうかな・・そこまで成れるかな」

 ボウはそこまでしゃべると、スクと立ち上がり
 「オイラ小便してくらぁ」
 魔よけの般若に身を変えて外の闇へと走り出した。

 脚をとめ 用を足そうと身構えると、
 「あっ」何かを見つけ、それを凝視した。
 立ちつくし、闇のどこかを見つめるボウを不審に思い旅僧が声をかける。
 「どうしたボウ。もう一匹鬼でもでたか・・。」
 ボウは背中にかかる声にくるりと身を変え、般若がもごもごと危機をうったえる。

 「大変だ旅僧さん。山狩りが始まるよ。ほら、寺にたくさんの人が集まっている。きっと役人達も居るはずさ・・・あれは山狩りだよ」

 旅僧と弟子が立ち上がりねボウの横で麓のほうを木々の間から覗き見る。寺があるあたりには、たくさんの灯りが見てとれる。

 「ボウよ、寺に人が集まっているだけだろう。なぜ山狩りとわかる」
 ボウは般若の面を懐にしまい込み

 「ほらほら、あそこの灯りは提灯さ、あんなにたくさんの提灯を村が持っているわけないだろう・・それに松明もあるだろう。灯りの揺れ方が違うのさ」
 旅僧と弟子がボウの言葉を確かめるように灯を見つめる。

 「ほら、あそこをご覧よ。列を作り始めた。・・山に入るために整列してるのさ。村の人たちはあんな並び方しないよ。
 あんなことするのはお侍達に決まってら。・・きっと鬼さんを探しに来るんだぜ。ここを早く出たがいいぜ旅僧さん」

 幼さを感じさせない観察力で物事を判断し、旅僧と弟子を納得させてしまう。


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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

7 粘る性根。
   7  粘る性根


 「わっははははっ」
 それが気に入らないボウは
 「和尚、笑っちゃいけないよ。オイラ鬼を見るのは初めてなんだから」
 と、唇尖らせ文句を云う。

 その文句が粋なためか、なおさら笑い出す。
 「わっははははっ。ゆかいゆかい。鬼かッそうか鬼だ赤鬼だ。日に焼けた赤鬼だ。わっはははははっ」

 旅の僧はまだまだ笑い続ける。人がこれほど楽しく笑うところをはじめて見たと思えるほどの笑いだった。弟子も師ほどではないにしろ、顔を赤くして笑っている。

 ボウはふくれっ面で、
 「笑えばいいさ。オイラまだ子供だから鬼を見るのは初めてだ。めずらしいから・・しょうがないのさ」

 ボウが云うと、
 「鬼がめずらしいか。はははっそれはそうだ。見たことがある奴もそうそういまいて」
 まだ笑っている。よほど愉快なことのようだ。
 
 ボウは膨らませるだけほっぺを膨らませ
 「偉い坊主のくせに子どもをからかっちゃいけないじゃないか」
 そういいながら、ふと鬼に視線をむける。鬼もこちらを見ている。目が合うと顔いっぱいに皺をつくり、白い歯を見せてニコリと笑う。

 ボウは少し驚き『ウッ』と少し身を引いて、ひきつった笑みをかえした。また旅の坊主がそれをみて、 
 「こりゃたまらん。鬼の笑顔も当然の事初めてだな。わっはははっ」
 まさに愉快としつこく笑い続ける。


 笑いのなかボウは鬼と坊主たちの顔を見回し、ふと不思議に思うことがあった。
 「ねぇ 和尚さんて偉いのでしょう」
 ボウの質問に旅の僧は笑いながら
 「うむ、偉いぞ。少なくともこの弟子よりかなり偉い」
 まさに子供だましに答えてくる。

 それに対してボウは、まじめな顔で、
 「なぜ旅をしながらオニさんといるの・・・。何処で出会ったの、知り合ったのはいつさ。村の鶏はオニさんが獲ったの・・・。食べちゃったのかい・・。いまからどうするのさ」

 好奇心が言葉となりほとばしりでてきた。この幼い童子の性根を知っている僧は、
 「しまった・・・。」と思ったが事すでに遅かった。

 「ねえ、鬼さんは村の人たちに狙われてしまうではないの・・。いくにちか前から、あまりにも鶏が減るからってお役人も呼んでたでしょう。・・あっ・・そう云えば・・。鶏が盗まれだしてからと和尚達が寺に来た頃が同じだぞ・・。わかったぞ。やはり和尚たちは、この鬼さんと旅をしているんだ。・・偉いお坊さんが盗人の旅かい だめだよ そんなことしてちゃ」

 子どもの口は止まらなくなっている。一つの質問が終わると、それに答える前に次の質問がぽろぽろと口からこぼれてくる。

 「あっいけないや。おいら和尚たちの名前知らないや」
 ボウはそう云うと皆を見回し、
 「ねえ、なんと呼べばいいのさ。オイラは皆からボウと呼ばれている。おとながよく、こらボウズって呼ぶだろう・・」
 一度皆の様子を伺うために言葉を切る。誰も何も言わないのを確かめて、
 「おいら捨て子らしいから名前がないのさ、だから皆がそう呼ぶのさ。ねえ、みんななんて呼べばいいのさ」

 旅の坊主は休むことを知らない子どもの質問に、
 「わっはははっ。儂は・・・そうだな旅の坊主だから・・・」
 しばらく考え込み、
 「リョソウと呼べ。リョソウと。旅の僧だから旅僧だ」
 「リョソウ・・旅僧さんかい・・。呼びにくくて変だけどいいや。じゃ、お弟子さんはそのまま、お弟子さんだね。鬼さんは鬼さんだ。わかりやすくていいや」
 
 呼び名が決まったことで仲間意識ができたのか、ボウは『うんうん』と頷くと、ひとりで納得している様子だった。
 「あっ・・そうだ」
 ボウは納得顔を旅僧にむけて、
 「旅僧さん。旅の途中でいいから、おいらに名前をつけておくれよ。おいらも名前が欲しいや・・ねえ・・旅僧さん・・つけておくれよ・・。」

 ボウの頼みに、                
 「旅の途中はだめだ」
 薪をくべながら旅僧が答える。
 「なぜさボウが聞き返す。
 「良いじゃないか。偉い坊主なんだろう・・つけておくれよ。偉い坊主につけてもらえると、オイラも自慢じゃないか・・つけておくれよ」
 「だめだ。旅の途中だと次はいつ会えるか判らないじゃないか」
 旅僧の言葉に、ボウは満面の笑みを浮かべて
 「だいじょうぶさ。オイラ旅にでるって寺の人に云ってきたから。寺の人も行ってこいと云ったんだ」
  
 「・・・・・。」これには旅僧も弟子も驚いて顔を見合わせていた。鬼は目の前で休むことなくしゃべり続ける子どもと、なにやら押され気味の大人たちが、何をそんなに絶え間なく言葉を交わしているのか、不安げに事の成り行きを見ていた。

 「わっはははは。それはいい。そいつは愉快だ。わっはははは。しかし夜が明けたらかえるんだ。よいな子ども」
 旅僧の言葉に間をあけずに、
 「やだね。それにオイラはボウだと云ったろう。子どもだけどいまはボウと呼びなよ。・・オイラはついてゆくと決めたんだ。いいかい。オイラはついてゆくから」
 旅僧も弟子も、あきれて笑いがきえたが所詮は子ども。朝にでも説得できるだろうと思っていた。


 ボウの興味は鬼にうつっていた。

 すでに恐怖は消えたのか、
 「鬼さん言葉わかるかい。おいら鬼に会うのは初めてなんだ」
 鬼に向かいしゃべり始めたボウを、鬼は『何事』と見つめている。ボウがしゃべり終わると『なにを云っているんだ』と旅僧たちに尋ねるように顔を向けて眉間に皺を寄せる。

 「旅僧さん。鬼さんの言葉わかるかい。オイラの言っていることが解らないみたいだから、鬼の言葉で話してあげなよ」
 旅僧は薪をくべながらニコリとして
 「儂にも解らん」と首を横に振る。

 「・・・・。」



                   


テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学

6 般若と鬼
 6  般若と鬼


 若い修行僧の師は『なにごと』と顔をあげ、わが身の背中の辺りを見つめる弟子の視線を追いふりかえる。その右横に座るものも『なにと振り返る。
『ハッ』師は息をのみ 右横の者は『ガッ』と驚き立ち上がる。

 白く浮かび上がった般若の顔が、洞穴の前で静かに建ち尽し伺っている。
 「うっ」数珠を手に『失せて無くなれ』と声をだすその時、修行を積んだ僧 般若の身なりと脚を確認する。
 「こどもかっ」とすぐに思いつく。

 般若は僧の横に立ち上がる者に顔を向け、その姿かたちを確認して
 「ひっ」と叫び踵を返して闇の中に走り去ろうとする。

 「いかんっ」般若の正体を見抜いた僧はすかさず立ち上がり。
 「だいじょうぶだ。走ると危ういぞ」瞬時に般若に近づき抱きかかえる。
 「ひーっひーっ」と般若は息を漏らし 徳のある僧の腕の中で暴れ、僧は手に負えない般若を洞窟の中に必死で連れ込んでゆく。

 「わーっ 離せっ オイラはかえるぞっ帰るからはなせ離せ」

 連れ込まれた般若は、あるだけの元気をだして手足をばたつかせ暴れまくる。
 「おっおおおっ 落ち着け。儂じゃ 旅の坊主じゃ・・・めずらしい菓子もやったろう。妖怪の話もした。つい先ほどもこうして抱えた旅の坊主じゃ。ななっなあ  ・・落ち着いてくれ」 

 最後は懇願していた。
 「んっ」般若の動きが『ぴたり』ととまる。ずれた般若の面をずらしてしまい、抱える僧をちらりと見上げて
 「あっ旅の坊主」 あっけに取られて言葉をこぼす。

 「旅の坊主とはなんだ。そう呼ぶなといったであろう・・。」
 脇に抱えられたまま、般若の面をはずして、ボウは「あっ」思い出したように、自分が恐怖で逃げ出すきっかけの者に目を向けてみた。

 「あ゛ーっ」そのものを確認すると再びカンシャク玉のように暴れだした。
 「わーっ鬼だっオニオニ鬼だ」
 「わかったわかった。おちつけ 落ち着いてくれ。獲って喰うことはない」
 力の限り命の力の限り暴れる童子に、
 「こら子供っ今夜だけでお前は儂に十年分の怪我を負わせる気か」
 と愚痴ってみたが、童子が静まることはしばらくの間なかった。





              

  ボウは視野の狭い般若の面ごしに視線を走らせる。
 若い僧が尻餅をつくのを確認し旅の僧も確認し。
 そしてその右横に、もじゃもじゃ頭の赤ら顔を確認した。
 そして、それはたちあがる。

 それはゆっくりヌーと立ち上がり、今まで見たどの大人達よりも高く高く立ち上がり、岩の天井にもじゃもじゃ頭をつけていた。
 『鬼だ』言葉に出したつもりが言葉にならない。
 考える暇すらない。
 身体は今歩いてきた道を、回れ右して走り去ろうとしていた。が、衝撃と共に地から脚が浮く。
 耳に何かが聞こえている気もするが、それどころではない。
 『喰われる』その思いがわきあがり暴れに暴れまくっていた。
 
 捕らわれたわが身をあるだけの力で暴れさせる。その耳に聞きなれた声が聞こえてきても、すぐには理解出来ない。死ぬ間際の走馬灯の一部かと思い考えると、ふと、先ほど同じような状態で、同じ声をきいていたのを思い出す。

 『ん?』
  
 ボウは般若の面をずらして見上げてみる。
 「あっ旅の坊主」
 先ほど、寺の境内を登りきったときと同じ言葉をこぼし、同じ叱りの言葉が同じ声で返ってきた。

 「旅の坊主とはなんだ。そう呼ぶなといったであろう」
 ボウは安心したのもつかのま。今感じていた恐怖の元に視線をなげてみた。まさに得体の知れない者をみて、もって生まれた防衛本能は、あるだけの力、だせるだけの力で手足を動かせと命令してくる。

 「わーっ鬼だ オニだーっ」
 魂の奥底からあるだけの元気が出尽くすまでのあいだ。旅の坊主は蒼痣を増やしていった。


               4

   「んー・・・。」

 子供の腕組みをした身体からは唸り声だけが出ていた。
 それは恐怖からではなく苦しみからでもなく、言葉に出来ない想いが喉の奥底から自然とこぼれて来ているのだった。
 「んー。」
 落ち着きを取り戻して坊主横で一点を観ていると、
 「まあ座れ、いいから座れ」
 一点を見つめたまま恐る恐る腰を下ろした。

 視線を釘付けにしているものを頭の先からゆっくりとつま先まで見てゆく。
 「うーん・・。」
 くるくるとまるまったくせ毛が焚き火の灯りで光っている。
 ボウは背筋を伸ばし、すこしずつ腰を浮かして立ち上がる。
 「つ・・角が・・ないな・・。」
 つぶやいてみる。
 「みえないだけかな・・。」
 少し腰をさげ、
 「眉もあかいや・・。目は・・オイラは茶目だけど・・もう少しうすいなぁ・・鼻は凄くたかいや」
 恐怖と好奇心で、ぶつぶつとつぶやきながら鬼を観察していた。
 「赤鬼かな・・・。身体はでかいや・・・厚みもあるし。でも怪力和尚のほうが強そうだ」
 
 身体は毛深く普通の大人よりもたくましく見えるが、やつれた感じが見て取れる。腰にはボロをまとい、肩からは袈裟のお下がりをかけている。身体の露出している場所は赤っぽい。日に焼けているのか垢なのか、赤鬼だからか・・。
 手足はヒョロリと長く、みかたによっては、かなりのあいだヒモジイ思いをしてきて痩せこけたようにも見える。

 「うーん」
 ボウは再びうなり鬼の顔を見つめる。
 彫が深く高い鼻、灯りのあたり具合によっては獲物を狙う山犬を連想させる。
 「やっぱり・・肉ばかり食べるのかな・・。」
 ボウが鬼を観察し、ぶつぶつとつぶやいていると、鬼が少し黄ばんだ白い歯をみせて『ニッ』と笑う。
 「うっ」突然の笑顔に驚いて、腰を抜かしてボウが座り込む。
 
 それを見て、旅の僧が愉快だと笑い出す。


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テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学

5  般若
5  般若



 念のこもった般若の顔を踏み台をはこんで壁からはずした。

 月明かりにはじめて照らされた般若はニヤリと笑い、
 「さあ、ゆこう。気ままだ」とボウに語りかけていた。
 
 ボウは、家族を懐にしまい
 「いそがないと見失う」階段を駆け下り、戸口から飛び出してゆく
 「ボウっ、何処へゆくっ」
 留守番の僧が驚いて声をかけてくる。

 ボウはビクリとして立ち止まり『・・・・・。』しばらく無言で立ち尽くした後に、
 「おいら旅に出てくる。和尚様にはよろしくお伝えください」
 そういって頭を深く下げると再び駆け出した。

 留守番の僧は、『なにが旅だ。朝飯までには帰ってくるだろう』と普段から好奇心のままに駆け回る子供の事は気にもせず、元気に走り去るボウの背中を見送っていた。
 「飯の支度までにはかえってこーい。さぼるなあー」
 ちょこまかと走り去る小さな背中は、山の闇へと溶け込んでゆく。


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何も見えない山の道
 
 闇の中に微かな揺れの提灯が見え隠れ。
 「裏山は得意だ。目を瞑っていても道がわかるぞ」
 
 幼い頃から山に子守をしてもらっていたボウだ。どこの大人たちよりも、何処に何があるか。湧き水は何処にあり、何処に何の木があり木の実があるか。
 この季節のこの匂いは何処の沢、この香は何処の木から。

得意中の得意だった。が、しかし。
 
 旅なれた坊主たちの脚はつよく、子供の疲れしらずの脚も、そう、たやすく近づくことは出来なかった。
 「でも追いつけるぞ。きっと疲れて視界がきいた湧き水があるところで休むはずだ」が、そこには誰もいなかった。

 「うーん・・。おかしいな」
 ボウは辺りを見回してみる。月明かりに照らされた村が見える。提灯らしき灯りが幾つも見える。村人達はまだ何かしている様子だ。
 「かえろうかな」
 誰もいないとなると急に不安になる。
 
 辺りをきょろきょろとうかがってみると、見えない人影すら見えてくる。ボウは近寄ってくるかもしれない妖怪どもに思い知らせてやろうと、懐にしまっている般若の面を顔にかぶった。
 
 「お月さんは、この般若がオイラだと判るから驚かないだろうな」
 小さな般若が月を見上げていると、鼻になにやらマトワリついてくる。

 「オイラにも妖力ついたかな・・・。」辺りをうかがう。
 「・・ひ・・だ」どこかで木を燃やしているようだ。
 「煙の匂いだ。どこだ・・あっ旅の坊さん達だな」

 あたりに燃え上がる火は見えない。
 ボウは自分の頭の中に地図を開いてみる。この山の中で火を焚いても周りに火が見えない処
 「洞穴だ」

 煙が見える。わずかばかりの月明かりと提灯の灯りで、霧とも煙ともつかないモヤが流れているのが見える。
 霧と違うのは『煙のにおいだ』嗅ぎなれた生木の燃えるにおいだった。
 
 「あっちだ」
 提灯で般若の顔が白く光り、木々でつくられる闇の中を般若の顔だけが歩いている。豪胆で知れ渡った者も、白く浮かぶ般若を見ると腰を抜かすか、腰に刀があればすかさず抜いて斬りつけることだろう。
 白く光る般若は提灯の灯りを頼りにと、上下に揺れて獣道を洞穴へと近づいて行く。


 灯りがもれている。
 岩肌の大きな岩が抜け落ちたような穴だった。大人でも五人、六人休めるような広さがある。
 『いるな』
 洞穴に近づくと灯りがもれている。さらに近づくと、なにやらぼそぼそと話し声も漏れ聞こえてくる。
 
 『見つけたぞ』
 ボウは何のためらいもなく洞穴の前に立った。そこから見えるのは三人の大人。
 入り口に背を向けているのが二人、入り口に向いて一人、胡坐を組み火に当たっている。

 こちらを向いているのは、旅の坊主の弟子、若い修行僧だ。
 弟子は、ボウの気配にすっと顔をあげる。
 顔を上げた瞬間。弟子は息をのみ、体の重心が後ろに移り体制を崩す。
 「いっ」と驚きの声と共にあわてて立ち上がる。
 「あああっあっ ものの化・・物の怪だ」(もののけとどちらも読む)
 息を吸っているのか、吐いているのか。驚きの声が終わると腰を抜かして倒れこんでしまった。


  まだ、まだ若い。
 二十歳を一つ二つほど越えたばかりの若者は、経を唱えたところで何も観得ない。名のある高僧に縁あって一緒に旅をしているが、まだ、自分の師がどれほどの者なのか解らなかった。
 今この瞬間、闇の中には闇の世界があるのをその目で確かめてしまう。


 闇と光の狭間で何ものかな気配を感じフッと顔を上げてみる。
 師の背中にある光と闇の狭間に『ものの化』を、精霊たちの邪心から生まれたような物の怪を、白く浮かび上がる般若を観てしまう。

  「いっ」  驚きと共に声は出すが息は吸ってしまう。
  「ああっ」 師に知らせようと立ち上がり
  「ああっ・・もののけ・・」言葉を必死とだし叫んでみる。
 しかし、腰に力はなく、そのまま倒れこんで固まってしまった。


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4  妖怪の子か
4  妖怪の子か



 旅の坊主は苦笑いをし、                にほんブログ村 小説ブログ 冒険小説へ

 「それもそうだ・・」
 と子供好きとわかる笑顔で「しかし子供が一人で夜中に走り回るほうがおかしいぞ」

 坊主が笑顔で顔の傷を摩りながら言葉を返してくる。
 「儂はすっかりと妖怪の子が走ってきたのかと思ったが・・。つかまえてみると鬼の子だった・・・。ところでこんな夜中にどうした」坊主がたずねると

 「いけない。うちの怪力和尚の出番なんだ。坊主と遊んでいる間はないんだった」
 ボウは言いたいことをいうと、踵を返して走り出そうとした。
 「おおっまてまて話してゆけ、この坊主としばらく遊んでゆけ」


 ボウは、ふりかえり
 「鬼がでたんだ。おいらも見た」と、ことの成り行きを簡単に説明し、
 驚く坊主に、
 「和尚も鬼に攫われるかもしれないから、はやく寝たがいい」
 そういい残し「和尚様ー」と、寺の門をくぐり走り出す。

 「おおっおい、お前は一人で帰ってきたのか・・これ・・・」
 ボウを見送る坊主は、
 「まるで鬼のこのようだな」と、元気の有り余るボウの後姿に笑みを浮かべ、その笑みを消すと
 『困ったぞ』腕をくみ村の方へと顔をむけ、そして寺の裏山へと顔をむける。
 「うーん・・こまった 困った」
 腕組みに頭を抱え境内へと歩いてゆく。
 「うむ。・・・・こまった」


              2


ボウは『和尚様』と叫びながらふと思う。

 『あの坊さんの名前知らないなぁ・・・。ここに一月もいるのに・・名前を知らないや・・・?」
 名前を聞こうと立ち止まり振り向くと、旅の坊主は腕を組み、なにやらぶつぶつと、つぶやきながら歩いている。
 『別のときにきくかな』ボウはふたたび
 「和尚さまー」と 叫びながら和尚の寝床に駆けていった。


 布団の上に正座する和尚へと報告すると
 「よし、わしも行ってみよう。ボウよ、お前は寝ていなさい」
 とりあえず、ついてゆくとダダをこねたりして見たが聞き入れられず、早く床に入れと怒られてしまう。

 怪力和尚が身支度の間に、ボウは納所の部屋へと戻り寝床の窓から村をのぞき見てみる。村には人だかりと、あらためて熾した火が見える。
 「ややっあれは寺の若い僧達だぞ。村の人たちも増えているぞ。女子の衆も出てきたな」

 ボウは鬼がどこかにいないかと注意深く村を見渡してみる。犬達はすでに落ち着いて静かになり特別な気配は何も感じられなかった。

 しばらく村を見回していると犬どもが吼え始める。今度は『なに』と集まる村人たに視線をむけると
 「あっ 叉さんが喧嘩をしている。取っ組み合いをしているのは叉さんだ。怪力和尚の出番だな」
 周りの者たちが 喧嘩を止めようとしているのが見てとれる。
 「和尚さまは、まだ支度できないのかな」
 ボウは何気に境内に目を移すと、怪力和尚と旅の坊主がなにやら話しこみ頷きあっている。

 怪力和尚や村の出入りのもの達の話を聴くと、この旅の途中にある坊主は歳のわりに、かなり偉い坊主らしい。三十路も半ばにしてかなりの位まで来ているらしかった。

 しかし、ボウにしてみれば蚤と虱のたかる変人にしか見えなかった。
 「見た目じゃ解らないや。オイラにはただの汚い和尚にしか見えないや」
 ボウは一人で感心しながら二人の僧の動きをみつめていた。
 「・・へんだな」

 寺の納所の人間や旅の坊主の弟子が荷物を抱えて側でたっている。怪力和尚と納所の男。その向かいに旅の坊主とその弟子の若い修行僧。お互いが向かい合い深々と頭を下げて言葉を交わしている。 
 
 納所の男から弟子の僧へと大きな荷物が手渡され、旅の坊主も大きな荷物を背中に抱え再びの一礼。

 弟子が大きな荷物を抱えるのを納所男と手伝っている。しっかりと荷物を受け取ってしまうと再びの一礼を丁寧にして、何かをしゃべっている。餞別の荷物の礼を言っている様子だった。

 話がしばらくつづいて、今までとは違う頭の下げ方をしているのが観てわかる。四人が四人とも今生の別れのように頭を静かにゆっくりと下げてしばらく固まっている。
 「へんだな・・。」ボウは首をかしげる。


 夜もふけきり草木も眠りについた月の下。 
 「今から旅たつのかな・・。何も云ってなかったぞ。旅立ちは普通夜明けと相場は決まってるのに」
 怪力和尚は振り向きもせず村へと向かい、旅の坊主は裏の山へと歩き出していた。

 夜のなか表の世界に歩き出すものと裏の世界へと歩き出すもの。
 「何かあるんだ・・・。鬼が出るから・・怖いから逃げるのかな。でも、夜歩くのはもっと怖い気がするな。・・偉い人の考えはオイラに解せないな」
 

 旅の坊主たちの姿が見えなくなるとボウは立ち上がり、納所の二階から駆け下りて裏山に走り出した。

 「いたっ」
 山の入り口。木々で暗く見通しが利かないが、
 「提灯だ」灯りが見え隠れしている。

 「・・・・。」ボウはしばらく無言で、火の玉のごとく怪しく揺れる灯りを見つめていた。
 「よしっ」何かを決し、踵を返して納所に走り戻り提灯に灯りをつけた。

 「オイラもゆく」と、納所にある鎌と杖を刀の大小よろしく腰に挿し、
 「お姉も持ってゆこう」
 納所にある鏡を取りに二階へと駆け上がる。
 「貴重なものだから・・・怒られるかな・・・。」

 ボウは鏡を元の場所に片付け、壁にかけてある白い般若の面を手に取り、 
 「お月さんは見上げるとあえるしな。このお面はここでオイラとずぅっと暮らしてきたから連れてゆこう」

 あやしく 笑みとも怒りとも恨みともつかない表情を浮かべた般若の顔、名のある名匠か 旅のものが寄進したのか、常識の中で薄気味の悪い般若の面もボウにとっては、いつも一緒に寝起きした大事な兄弟家族だった。




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