イキドマリの道ではない 確実の道でもない ツライ道でもない わくわくがある道ではない こころ踊る道 

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63 繋がり

  


 鬼は寝込んだまま。
 自分の身代わりに死んだかもしれない犬。
 寺にいるときには、死と言うものを見かけることのある日常、しかし、今ほど死を感じることはなかった。

 今までとは明らかに、言葉少なくなり、『なぜ、どうして』と、周りを困らせる事も減っていた。が、しかし、より一層増してきたのは好奇心と知識欲だった。
 しゃべる量は減ったが、出歩く量は増えている。

 港に船を見に行ったかと思えば、船大工の仕事を一日中眺め続け、鬼の横でボソボソ呟いているかと思うと、船大工の仕事場で手ごろな丸木を譲り受け、ノミを手に入れ何やら彫っている。

 日々に目的が有るのか無いのか、少なくとも今回の犬の死で大人へと一歩近づいた様子だった。


 「さて」
 慎太郎が笑みをみせ
 「ボウが意識を戻して時間も経たぬ今、後しばらくは怪我の様子を観たが良いだろう。彫り物をしている時に聞いたが、奴は長崎を見るんだと言い張る。
 ここで唐一朗の元で商いの方を志せと言ったが、返ってきた言葉は『嫌だね』の一言」

 慎太郎は笑いながら、
 「て、ことは、唐一朗も家を追い出されずにすむということだ」
 と、笑う。
 「どういう意味だ」 
 唐一朗が苦笑いに慎太郎へと言葉を返す。

 「お袋様が言っていたぞ。『あの子供はよい』と。放蕩息子の居場所がなくなるぞ」
 唐一朗が笑いながら、
 「それは認めよう。奴は人と繋がるのがうまい。金勘定は兄の三紀彦が得意だ。ものを売るために人をあつめるのはボウが良いだろう」

 周りの者たちも納得とうなづく。
 
 「奴は長崎に連れてゆこう」
 旅僧が言う。

 「駄目かと思った命もあれだけ元気だ。おおきな怪我もなく、人としても少し出来具合が良くなっておる・・問題は」
 問題は鬼をどうするかだった。

 長崎にと連れ行くことは当然としても、病んだ身体は今しばらく治る様子はない。それを考えると知恵を絞らねばならない現状だった。

 「世間では」
 弟子が呟く。

 「鬼の正体が・・・・。 南蛮人にしろ異人にしろ見つけ出し報告したものには褒美も出ると・・。要所に札が立っていると・・・。」

 その言葉に唐一朗がうなづき、
 「私のうちにも隠し立てするなと役人が来ました。取調べは慎太郎の親父殿ゆえに、山で足を滑らせ慎太郎達と難儀していたことを検めて話し、それを納得してくれたが・・・。しかし世の中を走り回る噂は、私どもが南蛮人をかくまっているだの、鬼に襲われたたられているなど色々噂もたっいます。」

 「うむ」 旅僧はうなづき








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62  死    ・

 


 お経が聞こえてくる長屋の戸口にまで近づいた。
 ボウは勢いを緩めず戸口を掴みいっきにあける。

 バンッ
 戸が勢いよく開き、経を読む旅僧が驚き振り向く。他には男二人に一人の女。みな孫がいるような年寄り達だった。みなが驚き顔でボウを見つめている。

 息切らし戸口に立つボウへ「こら」と叫び追いつく若者三人と白髭の翁。
「・・・オニさん・・」
 ボウが一歩踏み出しあたりを見回す。

 泣き出しそうなボウの顔へ、ニコリと笑みを見せる旅僧。

 「元気そうだ」
 嬉しそうに声をかけ立ち上がる旅僧。そばにいる年寄り達も
 「おおおっ、元気そうで何より何より」

 ボウはみなが見せる笑みの意味するものと、葬儀の時に挙げる経に混乱をおぼえ
 「死んだの」
 涙を浮かべ一歩踏み出す。

 今まで忘れていた痛みが一気に身体を支配し、ボウはその場に崩れ落ちて言った。
 「おおおっ、いかん。早く寝かせなくては」

 白髭の翁も、誰もが慌てて
 「これこれ、しっかりしろ」
 ドタバタと慌ただしくなってきた。




 ボウはゆっくりと立ち上がり、寝ている部屋から出て旅僧たちの部屋へと顔を出した。

 鬼は死んでいなかった。
 だからと言って、良い具合ではなく寝たきりになっている。時に目を覚まし、幾らかの食欲を見せるのだが、起き上がるのも苦しげな身体は、
 「用心しなくては」
 白髭の翁はそうつぶやくのだった。



 経は確かに死を迎えたものにあげていた。
 「儂らを助けてくれた犬の親犬だ」

 まさに今朝死んだらしい。
 「儂らを助けた時から、食欲なくし寝込んでいったらしい」
 
 その親犬は、まさにボウが目を覚ましたその時に息をひきとったらしい。
 「お前の代わりかも知れんな・・」
 旅僧がそう言う。

 「儂らの命を救ってくれた犬の親だ。経は感謝の経だ」
 ボウは犬へと感謝の手を合わせ、その後、親犬の眠る場所で線香をあげた。


 聴かされた話に、何かの因果を感じるボウ。

 「もし因果でオイラたちが助かり親犬が倒れ、オイラが助かる事で親犬の寿命が尽きたのならば、感謝でいっぱいだ。 オイラは犬に生かされたのかもしれない。御仏はオイラを活かすために親犬の命と・・・それなら感謝しても足りないぐらいだ・・。オニさんはどうなるのだろう。

 オニさんにはオニさんの神様がいるらしいけど・・・・。
 他所の土地だからオニさんの神様は力が及ばないのかも。
 オニさんは 仏様と八百万神の息がかからないところから来たから・・・オニさんの神様とはさすがの旅僧さんもはなせないんだ・・・。」


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61 ものごとの感

  21




 「でかいなー」 
 船大工の仕事場に近づくとその大きさに驚かずにはいれなかった。
 「遠くからは大きな倉だと思ったのに・・・倉とは違うな・・・つくりもシッカリとしてら」
 ボウは辺りをきょろきょろと見回し、

 「向こうの長屋が船大工さんの住まいかい」
 長屋もしゃれが利いている。
 見る角度を変えれば、船に見えなくもない。

 唐一朗は、はしゃぐボウを楽しげにみて、
 「船大工達は季節ごとに少々職がちがう者もいるが・・・船は注文があれば造りもする。最近は船の手入れや普通の大工土木作業をしておる。あと漁に出ている者もいる。うちで雇っているものは親方とその弟子が三人だ」

 唐一朗が話し終わるや否や、待ってましたとばかり目に付いていたものへと走り出した。
 「ああっ、新しい船だね。小さいけど新しくて綺麗だ」
 完成間近の船に近寄り、手のひらで船の感触を楽しんでいる。

 「造っているところを見たいな。唐一朗さん。船大工さんたちはいつ仕事をしているのさ、お日様は頭の真上に近づいているのに」

 船首にさわり
 「この曲がり具合は凄いぞ。右も左も全く同じつくりだ。どうやってこんな流れのある形を造るのだろう」

 美しい流れの曲線にみとれ、
 「オイラ仏像なら彫れるけど・・・上手じゃないけど・・・これはどうやって造るんだろう」
 感心して一人見とれるボウ、木を使っている以外はさしたる共通点のない仏像と船。ものを造る事に、何かを完成させる事に興味が湧いているのか、近づいてみたり、全体を眺めてみたり。

 「行くぞ」
 弟子が声をかける。
 「あいよっ」
 元気よく声を出して振り向くボウの耳に、
 
 「経がきこえる・・・。」
 どこからか、お経が流れてきている。

 「長屋だ」
 慎太郎が指差す。
 ボウは建物から出て、長屋をしばらく静かに見つめていた。

 「これは旅僧さんの経かい」
 つぶやいていたが誰からも返事がない。
 「ゆくぞ」
 唐一朗が言葉を出して歩き始める。

 ボウは経を聴いて葬式を思い出す。
 「お勤めの経とは・・違うぞ」
 
 朝に夕に、そして葬式祈祷にと経を聞いて育ったボウ。船乗りが潮の流れを読むように、ボウは経を聞き分けた。

 ボウはあたりを見渡し、
 「唐一朗さんに新太郎さんにお弟子さん・・・経をあげている旅僧さん・・・。」

 ボウは胸が締め付けられ始めた。
 「唐一朗さんは鬼さんの話はしてくれてない・・・そして坊主の経がきこえてくる・・。」
 こみ上げてくる。

 ここにいる人たちにお経を唱える旅僧さん。
 見当たらないのは
 「・・・・おにさん・・・。」

 ボウは走り出していた。

 「これっ、ボウ。慌てるな」 
 自体を察した唐一朗が叫ぶ。

 ボウの耳には経をあげる声しか聞こえてこない。
 「もしかして・・」
 不安がこころを支配している。

 身体の痛みをかばい、長屋へと走り寄る。

 「ここだ」

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60 あっ 船だ 逢えた

 60 船だ 龍も見たいな




 左手に海を見たまま歩いてゆく場所に、大きな倉のような建物がある。
 砂浜との境目近くに立つそれは
 「船大工が船の修理などに使う場所だ」
 
 砂浜には大小四艘の船が上げられていた。
 「あれは船かい」
 ボウは興奮して唐一朗の腕を掴む
 「ああ、あれが船だ」 
 「でかいなぁ、家ぐらいあるな。オイラてっきり海に浮かばせているものと思っていたのに、陸にあるぞ」
 「もう古いのでな。修理するにはしたがあれは特別でかい・・・使い道も限られているし・・・。普通の船はもうちとこまい。あの大きな船の周りに小さいのが隠れるようにあるだろう、あれが普通だ」

 唐一朗の話を聴いているのか聴いてないのか、ボウの身体は痛みを忘れ、足早に大きな船の下へと小走りに寄って行く。

 「おおっ。大きいなぁー。オイラの村の又さんの家よりでかいぞ、なぜにこんなにでかいんだろう」

 大きな船の周りを廻りながら、視線は小さな船へと移って行く。
 「これぐらいの大きさだと 川を渡る船より少し大きいぐらいかな。・・・あちらのはもう少し大きいぞ・・・。これなんか屋根がついていて、そこいらの家より立派だ」

 ボウは目が爛々と輝き始めている。
 「唐一朗さん」
 湧き出る好奇心と聞きたい数々の事に、押さえが利かず唐一朗へと振り向く。

 「あっ」
 振り向いたボウは驚きと、どこかから湧き出る懐かしさに、
 「あー、逢えた」と叫んでいた。

 そこには、
 「お弟子さんに慎太郎さん。怪我はないのかい、歩いて大丈夫かい」
 我が身の怪我も忘れ走り寄ってゆく。

 「おお、ボウよ元気か」 「元気そうだ」
 弟子と慎太郎が同時に声を出す。

 「怪我はひどいと聞いていたが」
 笑顔と心配顔を交互に見せる弟子と慎太郎。

 「その走りっぷりでは心配なさそうだ」
 と、満面の笑顔を見せる。

 三人は肩に手をかけあい、
 「善かった善かった」
 喜びあっていた。

 ただ喜びあうのはつかの間だった。
 「あ、そうだ」
 動きを止めるボウ。

 「そうだそうだ。竜の話をしておくれよ。いつ見れるのさ、今日は見れるかい、それとも明日かい。海の竜は別の呼び方があるのかい、竜巻と言う竜の巣みたいなものもあるんだろう」
 いきなりのボウの言葉に
 「いや・・・・・。」
 その一言を言ったきり黙りこむ慎太郎。弟子は自分に振られないように静かに笑みを消していった。

 黙りこむ慎太郎の心情もよそに、
 「竜も見たいけどこの船もみておくれよ、こんなにでかいんだ。・・そうか新太郎さんは見慣れているね。お弟子さんはどうだい、この船は本当に海に浮く事が出来るのかな、・・・浮かないからここに置いているんじゃないのかい。海に浮かべているところを見て見たいなぁ」

 「もうすこし行けば港がある。明日にでも連れて行ってやる」
 唐一朗は愉快に笑い
 「ささ、旅僧殿のところへとゆこう」

 船の修理や造船に使う大きな建物へ向かい歩いていった。


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59   同じさ

59  住んでるだけなら同じさ




 ゆるりと歩く3人。
 唐一朗は振り返り、山男達が浜辺を歩き去るのを確かめてから
 「どうしたボウ」
 ボウの緊張した動きを確かめる。

 ボウは唐一朗の顔から、翁へと視線を移す。
 視線を移された翁は、
 「邪魔ならば、私は離れておくが・・。」
 翁が気を使う。

 「構いませぬ」
 唐一朗が翁に答え、ボウへと『大丈夫だ』とうなづいてみせる。

 ボウもうなづいて見せ、唐一朗の疑問より、自分の疑問を先に言葉にしていた。
 「オイラ、はやく旅僧さんたちに逢いたいな。みんなの怪我はどういったぐあいだい」

 「うむ、皆熱でうなされていたが今はよい」
 唐一朗は前を見たままこたえる。

 「おいらはどれ程寝てたのさ。山の中にいたはずなのに、いつのまにか立派なお屋敷に居ただろう。あれは唐一朗さんの家かい」

 身体に痛みの残るボウだが、それを忘れさせてしまう好奇心は顕在だった。これだけしゃべることが出来るのなら身体は回復しているのだろう。

 「家ではない」
 唐一朗は前を見たまま歩く。その左隣には翁、翁も髭を摩りながら笑っている。唐一朗の右隣では脚をかばいながら忙しく二人の顔を見回し、
 「家ではないのかい。じゃ、翁さんの家かい、豪華な家だなぁー」
 
 「ほっほっほっ」
 翁は笑い声をあげながら、
 「それほどの金持ちならよいのだがな」
 髭を摩りながら愉快そうだ。

 唐一朗は軽く笑みを見せながらまっすぐ歩く。
 「あれは使用人たちの仕事場だ。帳簿をつける者、船に乗るもの、隣町に行くもの、あの場所で飯を食ったり仕事の手配をしたり・・・色々だ」
 唐一朗の言葉に、
 「家は今からゆくところかい」
 とてつもなく大きな屋敷を想像して行き先を問うボウ。

 「いや」
 唐一朗は否定の言葉ののち一点を指差し、
 「あれが家だ。まあ・・・。住んでいるだけで・・・親の家であり兄の家だ」
 「ふーん。唐一朗さんはオイラと同じだね」

 唐一朗は『何故』と顔に出しボウへと顔をむける。
 「ボウと同じか・・なぜだ」

 「同じさ、住んでいるだけだろう。オイラもなかなかの大きな寺に住んでたんだ」
 ボウの言葉に唐一朗は楽しげな笑みを浮かべ。
 「おおおっ。そうだな、儂とボウは同じだ。なるほど、人は食べる量も必要な広さもあまり違いはないな。今居る場所が各々違うだけだ」

 唐一朗は何かに気付いたように、楽しげに一人うなづき
 「そうだ、居場所を・・・自分の居る場所が問題なのだ」
 次男坊として身の置き場に困っていたのか、何かに気付いた様子だ。

 ひとり気付きがあった唐一朗の家を見ながら、
 「塀と、それより高く育った木々しか見えない家だね」

 松の木々の向こうの小高い場所に、白い塀が延々と続いている。
 塀を見つめ歩くボウに唐一朗が
 「家の話は終わりだ。あれを見よ」
 前方を指差す唐一朗。


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